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落花生の収穫(4)

ここでは、「落花生の収穫(4)」 に関する記事を紹介しています。
4
(ベトナム短編小説集『サヌーの森』新日本出版社)

花



(4)
 彼女は、第六組に参加してから一カ月たたないうちにもうみんなの顔を覚えていたが、ユアンとだけしか親しくしなかった。彼は、彼女より人生経験が乏しかったけれど、彼女の過去に深い同情を寄せていた。
 ある日、彼女が指導部の前を通りかかると、彼は壁新聞に絵具を混ぜては、絵を描いていた。
 「何て絵が上手なんでしょう」
 彼女が言った。ユアンは微笑しながら彼女を見つめた。
 「新聞に出す詩をおもちじゃありませんか?」
 半分はふざけ、半分はばかにした言い方だった。しかし、彼女はうなずいて、すぐ承知した。
 「いいわ。で、いつ作ればいいの?」
 ユアンの方は、なに結構、あのひとは冗談を楽しむことを知ってるんだと考えた。そしてつけ加えた。
 「だけど、ぼくたち、いい詩がいり用なんですよ」
 彼女は無造作に答えた。
 「たぶん、そうまずくはないでしょうよ」
 彼女は子供の頃から読み書きを習い、たくさんの古い詩や古い民謡を暗唱していたので、会話の間に詩をはさむことができた。日中の休み時間のひまひまに、彼女はわけなくひとつの詩をつくった。
 みんなは、彼女がこんないい詩をつくることができるとは思っていなかった。彼女の作品が壁新聞に現われると、たくさんの仲間がすっかり感動して、やがて暗唱し、喜んで口ずさむようになった。 
 こんなにも容貌や性格の対照的な二人が仲良くしているのを見ると、人々はすぐさま、彼らを組み合わせておもしろがった。本当のところ、それはダオをからかうためだった。なぜといって、たとえば年齢にしても、彼女は二十八だったが、みんなは、外から見たところでは、彼女はユアンより十は上だと言っていたのだから。それに、ユアンはもう女友だちがいて、似合いの一組をつくっていた。ダオのような寡婦が、ユアンのような若者を相手に望むのはできない相談だ。しかし、二人が毎月、同じ班で落花生を抜き、同じ機械で実を落としている間、彼女はそばにユアンの日焼けした力強い四肢を見るたびに、結婚生活の幸福にはげしいあこがれを感じ、まだ閉ざされてはいない未来に希望を抱いた。彼女は、まだ漠然としてはいるが、過去の日々よりは甘く明るい何かが、自分の前に輝いているように思うのだった。
(つづく)


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