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「落花生の収穫」(2)

ここでは、「「落花生の収穫」(2)」 に関する記事を紹介しています。
(2)
 一班の班長のラムが目をぱちぱちさせながら、彼女を眺めた。
 「あの、ちょっと.……あなただってお若いですよ。前途洋々ですよ!」
 こういう冗談を耳にするのは初めてではなかった。そのたびに、彼女はまるでいきなり自分自身の姿を見せつけられたように、心にショックを受けるのだった。彼女はすぐに落ち着きを失い、頭がかっかとなって、顔つきがすっかり変わった。彼女はすねた様子でラムをじっと見つめ、落花生の山にもたれて、苦々しい口調で言った。
 「年とった水牛だの、時期外れの種蒔きだの、袋の中に投げこまれたバラの花だのに、どんな春が残っているっていうの」
 ラムはずるそうな笑い方をしてユアンに目配せした。
 「だってさ、情熱には負ける人間がいないわけじゃないよなあ」
 ユアンは片手で髪の毛をうしろにかきあげた。少しくぼんだ美しい目は、ダオの方へ優しさをこめた視線を投げて、半ば閉じられた。ダオのとび出た頬はすっかり赤く染まり、とがらせようとした唇は引きしめることができず、心は晴れ晴れとしながら、喜びにさからっていた。彼女は大きく溜息をついて、一本の落花生をつかみ、ゆっくりと実をもぎとった。
 「あんたたちはわたしの生活を知ってるわね。毎年、年齢(とし)をとって、年齢が青春を追っぱらってしまうのよ。どの鍋にも蓋があるように、わたしにもデルタに夫がいるの。あの人はもうじきわたしのところへ来て、いっしょに社会主義建設に参加するようになるでしょうよ」
 だが、彼女は急に、ユアンと彼女、いちばんの美青年と醜い女を組み合わせるこの冗談の残酷さに気がついたかのように、自分のまじめな態度を口惜しく思いはじめた。何だって、悲しがったり、気がねしたりするの?どんな女だって、美しいところをもってるじゃないの?彼女はぱっと体を起こして、ユアンに近づき、鼻声で言った。
 「きれいな花は一スーで十本売ってるけれど、萎れた花は二タールの黄金がいるのよ。黄金二タールはいい値段なんだけど、売れるかどうかはしかとわかりかねます。ねえ、ユアン」
 彼女はこの調子でつづけたかもしれないのだが、ユアンが顔をあげて、白く輝く歯を見せて大笑いしたので、彼女は、若やいで、何もかも忘れたくなってきた。過去はなかったことにしたい、現在だけが──ディエンビエンフーの国営農場の婦人労働者として、運に恵まれたほかの女たちと同じように、幸福の分け前をもつ権利のある女としての現在だけが、あってほしかった。
(つづく)

(ベトナム短編小説集『サヌーの森』新日本出版社)

桜

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