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愛について

ここでは、「愛について」 に関する記事を紹介しています。
愛について
                           大島博光

アポリネールが 語ったように
ひとは ひとを愛するとき
おのれ自身を 語りながら
みんなのために 語るのだ
  *
きみは 春先のそよ風のように
遠い峠を越えて やってきた
蜜糟(みつぶね)から飛んできた 蜜蜂のように
菜の花の 花粉をつけてやってきた

きみは 春先のそよ風のように
暗い わたしの冬の中へやってきた
きみが やってきたら
雪のなかさえ 温かくなった

わたしの氷が 溶けるには
きみの微笑みだけで こと足りた
灰色のわたしの空が 青くなるには
きみのくちづけで 十分だった

きみは 柔らかいからだを弓なりにして
狂った若者を 受けとめてくれた
雪のなかに 泉を探していた牡牛は
きみの唇でやっと渇きを癒した

穴倉のなかに 虹がかかり
くる毎日が 祭りだった
酒が流れ 夢が湧きあがり
歌が流れ 蜜が流れた
ナルシスをまねていた 孤独者(ひとりもの)が
愛を 他者を 見いだした
悪夢ばかり見ていた わたしの眼が
太陽と大地を 見いだした

わたしの詩は 売れなかった
きみは街へ 花を売りに行った
太陽になめされた その手で
きみは 小さな星座をささえた
  *
愛するすべを 知らないものは
孤独で ひとりぼっちの男は
湿った うつろな洞(うろ)だ
ただ 毒茸が生えるばかりだ

ひとは 愛においても
絶望しては ならない
ひとは 愛に絶望すれば
愛の砂漠を さまようばかり

愛しあう ひと組の恋人たちは
腕をくんで ともに闘いながら
愛をふやし 愛をひろげる
未来への 道のうえで

アラゴンが 言ったように
世にすねたり 突っぱるより
愛することの方が はるかに
はるかに 偉大なのだ
(詩集「冬の歌」1991年)
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