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恋する女

ここでは、「恋する女」 に関する記事を紹介しています。
恋する女
                           大島博光

    かつて欲望と悦楽の名をこれほど大胆に
    これほど高らかに歌った声はなかった
     ──アラゴン「永遠の若者ピカソ」

わたしは 恋する女
ピカソが わたしを描いてくれた
恋する女の わたしの姿を
あられもないわたしの 姿態(ポーーズ)を

しかも そんなわたしの裸像を
一九七〇年 ところもあろうに
アヴィニヨンの 法王庁宮殿の
石の壁にならべて 見せたのだ

そこでこんどは わたし自身が
自分の言葉で 自分のイメージで
恋する女の 自分自身を
描いてみよう うたってみよう

わたしはじゃじゃ馬で おてんばで
天真らんまんで なびきやすく
そそっかしく 不意討ちをくらわし
抜け目なく 不死身で 大胆だ

わたしはしなやかで 窪みがあって
いつも満されずに じりじりしている
手のつけようもなく 血迷ったり
ひまわりのように陽気で 夢みがちだ

わたしは嵐ともなれは 凪ともなる
そよ風ともなれは どしゃ降りともなる
流れとなった わたしのなかを
いとしい魚が 泳いでゆく

わたしはひらかれた女 ひらかれた愛
わたしは身をのけぞらせて 挑発的で
露骨で 露出狂で 戦闘的だ
愛とは生きること生むこと変えること

わたしには 栗の花の匂いが立ちこめ
わたしの濡れた眼には 虹がかかり
そよ風さえ わたしをかき立てる
誰も野性のわたしを 飼い馴らせない
   *
男たちは わたしの肉体を愛しながら
わたしの精神が飢えていたことに 気がつかない

わたしが いつも飢えて渇いているのは                            
男たちが まるごとのわたしを愛する術(すべ)を知らないからだ

まるごとの愛のないところにいる女ほどに
満されようもなく 孤独なものはない

わたしが孤独(ひとり)でいるのは まるごとのわたしを
愛してくれる そんな男にめぐり逢わないから

わたしの愛は そんなに欲が深いのだろうか
精神の渇きをも 癒してほしいというのは
(詩集「冬の歌」1991年)

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