第十の歌 石の中の石よ
パブロ・ネルーダ 大島博光訳
石の中の石よ 人間はどこにいたのか?
空気の中の空気よ 人間はどこにいたのか?
時間の中の時間よ 人間はどこにいたのか?
きみもまた 生を全うしなかった人間の うつろな鷲の
ばらばらに砕けたかけらだったのか?
きょうの街通りを通り 足跡をたどり
死んだ秋の枯葉のなかを
魂を擦りつぶしながら墓場へと行くのか?
哀れな手 足 哀れな生……
きみのなかの ほぐされた光の日日は
祭りの日の闘牛場のリボンのついた槍の上に降る雨のように
ひときれひときれ 貧しい食物を
からっぽの口に与えたのか?
秘かな植物よ たきぎ取りたちの根よ
飢えよ おまえの珊瑚礁の線は
この捨てられた高い塔までせり上ったのか?
道の塩よ わたしはきみに尋ねる
左官の鏝をわたしに見せてくれ
建築よ わたしのするにまかせてくれ
わたしが小さな棍棒で石の毛皮をいためつけ
すべての空気の階段を空虚にまでよじ登り
臓腑をかきわけて人間に辿りつくまで
マチュ・ピチュよ おまえは置いたのか
石のうえに石を そして奥底にぼろを?
石炭のうえに石炭を そして奥底に涙を?
黄金のなかに火を そしてそこに顛える赤い血の滴りを?
おんみが埋めた奴隷を返してくれ
農奴の肢と窓をわたしに見せてくれ
話してくれ 生きてる時かれはどのように眠ったか?
話してくれ 疲労が壁のうえにつくりだす黒い穴のように
彼は口をなかば開けて いびきをかいて眠ったのかどうか?
壁よ 壁よ! 彼の眠りのうえに
石の階層はそれぞれ重くのしかかったのかどうか?
そして月の下に落ちるように 眠りとともに
その下に落ちていったのかどうか?
遠いむかしのアメリカ人よ 沈んだ許婚者よ
やはりきみの指もまた
密林を抜けて 神々の高い空虚へと向い
光と貞節の婚礼の旗の下
とどろく太鼓と槍にまじって
やっぱりやっぱり きみの指もまた
抽象的な薔薇や寒冷の線を運び
新しい穀物の血まみれの胸を運んだのだ
光る素材の織物まで 無情な深い穴まで
地に埋められたアメリカ人よ
やっぱりやっぱり きみもまたその苦い臓腑の底に
鷲のように 飢えを隠していたのか?
(『マチュ・ピチュの頂き』)
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