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兄弟よ 登って来い

ここでは、「兄弟よ 登って来い」 に関する記事を紹介しています。
兄弟よ

(角川書店『ネルーダ詩集』) (草稿『マチュ・ピチュの高み』)

ネルーダがマチュ・ピチュに消えた人間たちを兄弟と呼びながら、インカの人民のなかに見いだしたものは、現代におけると同じ根本的な問題であった。自由奔放な詩的ファンタジーにみちたこの抒情詩をつらぬいているのは、史的唯物論の赤い糸にほかならない。
  兄弟よ 登って来い わたしといっしょに生まれよう
  ・・・・
  もの言わぬ農夫よ 織工よ 羊飼いよ
  守護神の野生リャマを馴らしたものよ
  危険な足場のうえの石工よ
  アンデスの涙を運んだものよ
  ・・・・                    (「第十二の歌」)
 詩人がいっしょに生まれようと呼びかけ、自由と解放のために立ち上ろうと呼びかけているのは、現在、未来の人間たち、とりわけラテン・アメリカ諸国人民にむかってである。
<新日本新書『パブロ・ネルーダ』>


夜

兄弟よ 登って来い  

兄弟よ 登って来い わたしといっしょに生まれよう  
きみの苦しみが散らばっているその深みから
わたしに手をさし伸ばしてくれ   
きみは岩の底から二度とはもどって来ないだろう       
きみは地下の時間から二度とはもどって来ないだろう  
嗄れたきみの声は二度とはもどって来ないだろう 
抉りとられたきみの眼は二度とはもどって来ないだろう 

地の底からわたしを見てくれ   
静まり返った農夫よ 織物工よ 羊飼いよ 
守護神の野生のリャマを馴らした者よ   
あぶない足場で働いた石工よ    
アンデスの涙の水を運んだ者よ
指をふみつぶされた宝石細工師よ
自分の種子のなかで顛えている農民よ
自分の粘土のなかに散らばされた陶工よ
この新しい生のコップに注いでくれ             
   
地に埋められたきみたちの古い苦しみを 
きみたちの血を 額のしわを 
わたしに話してくれ おれがここで拷問にかけられたのは    
宝石が光らなかったからだ       
また石や穀物が間にあわなかったからだと 
わたしに指さしてくれ きみたちが倒れたその石を 
きみたちがはりつけにされた木組を
火をつけてみせてくれ 古い火打ち石を
古いランプを いく世紀ものあいだ
傷口にめり込んだ鞭を  
そして閃く血まみれの斧を 
 
わたしがここにやってきたのは 
死んだきみたちの口をとおして語るためだ 
みんな散りぢりになって黙り込んでるきみたちのくちびるを 
大地のなかでひとつにあわせてくれ 
そして奈落の底から話してくれ 
あたかもわたしがきみらといっしょに繋がれていたような
あの長い長い夜について  
何もかも聞かせてくれ 鎖のひとつひとつを
鎖の輪のひとつひとつを 足跡のひとつひとつを 
きみたちの隠しもった匕首を研ぎすまして 
そっとわたしの胸のなか手のなかにしのばせてくれ 
黄色い光の流れのように 
地に埋められた虎たちの流れのように  
そして思いきりわたしの泣くにまかせてくれ
幾時間も 幾日も 幾年も  
暗い幾時代も 星のうつる幾世紀も 

わたしにくれ 沈黙を 水を 希望を 

わたしにくれ 闘争を 武器を 火山を

きみたちのからだを磁石のようにわたしにくっつけてくれ  

わたしの血管にわたしの口に答えてくれ 

わたしのことばと血を通して語ってくれ

       (『マチュ・ピチュの頂き』)

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