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ヴァンスの礼拝堂の来歴(3)(アラゴン『小説アンリ・マチス』)

ここでは、「ヴァンスの礼拝堂の来歴(3)(アラゴン『小説アンリ・マチス』)」 に関する記事を紹介しています。
 いつも周囲の人たちのことには、ほんのささいなことにまで強い関心を抱いたマチスは、この予想上の計画にたいへん興味をもって、シスター・ジャックに助言したり、討論したり、提案したりした。デッサンするのが好きで、デッサンがうまかった彼女は、自分でもこの未来の礼拝堂用のステンドグラスの図案を用意した。ある日、彼女はステンドグラスの小さな図案を持ってきて、彼に見せた。透きとおった色紙の上に、聖母マリアが巧みに描かれていた。 彼らはこの図案について話し合い、マチスがそのデッサンをあずかった。

 数日後、サン・ポール・ド・ヴァンスのドミニコ会保養所で、回復期の静養中だった若い修道士、建築家の学生のレイシギイエが散歩がてらにヴァンスめぐりにやってきた。彼は修道女たちのところを訪れた。この地方の名所を知りたくて、彼は見るべきところを修道女たちに尋ねた。むろん彼女たちはマチスのことを彼に話した。しかし、この画家には容易に近づくことができなかったので、彼女たちは彼が建築家としてマチスを訪れて、彼と未来の礼拝堂の話をし、彼の意見を聞いて、彼女たちに助言してくれるようにと提案した。
 彼はそのようにした。
 二人の対談はたちまち活気を帯びた。マチスはすっかり乗り気になって、修道女ジャックのステンドグラスの図案を持って来させた。しかし彼がそれを見せると、前衛芸術の信奉者だった建築家の卵は、この「若い娘」の聖像を前にして皮肉な微笑を浮かべた。
 「先生、それこそあなたがそのステンドグラスをつくってやるべきですよ!その礼拝堂のことでは、あの人たちは他にやることもあるでしょう……また、先生がおつくりになって、どうしていけないんでしょう?」

 その後マチスは言ったものだ。「一時間で礼拝堂はできあがった」と。彼はあとに引けなくなって、楽しげに、夢中になってその仕事に没頭した。
 若い修道士はふたたび修道女たちのところへやってきて、礼拝堂を「風変りな」画家に任せるようにと、どうやって田舎の修道院長や関係者を説得したことだろう?──L. D.

(自筆原稿)

マチス

ヴァンスの聖ドミニコで働くマチス(1949年)

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