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アラゴン『小説アンリ・マチス』について ──マチスのルーツとひろがり──(中)

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 そして北仏(ノール)から南仏(ミディ)へ

 北仏(ノール)のカンブレーのカトオ生まれのアンリ・マチスの生涯には、画を描いて過ごした50年のうち、ニースで過ごした25年がある。じっさい、彼の絵画には、彼の芸術には、光から始まる、何か地中海的なものがある。こうして彼のなかで、フランス綜合が行われる。北仏(ノール)と南仏(ミディ)と。理性と没理性と。模倣と発明と。霧と太陽と。霊感と現実と。しかし、それらの対照は人間のなかに、彼の態度のなかにある。作品はすでに相反するものの均り合いだ、と彼が言うのは、それはフランスにほかならない。
 こうしてカンブレー生まれのマチスはシミイの巨匠(メートル)となった。

 夕方、わたしはアンリ・マチスにいとまごいをして、彼の住んでいる広大なレジナ荘のなかを降りてゆく。普通の部屋は、41年一42年の冬の条例にしたがって、ほとんどくらがりのなかに沈んでいた。森のように円柱のならんだ、あの柱廊・ヴェランダ・ホールをわたしはよこ切って、シミイの入口の、寒くて暗い道のうえに降り立ち、向きを変えてまたちょっと登って、壁のそびえた大邸宅の下の人気のない場所に立ちつくす。そこがニース行きのバスの停留所なのだ。そこは一種の十字路で、道は分かれて、暗鬱で奇妙な、まるくて崩れ裂けた巨大な塊一シミイの円形劇場(アレーナ)の廃墟を取り巻いている。その隣の豪華な分譲ホテルがレジナ荘なのだ。歴史のなんという奇妙な呼びかけであろう。バスはひとを待たせるものだ。わたしはその間ずっと歴史に想いを馳せる。
……
(つづく)

(『美術の教室』37号 1988年)

マチス
アンリ・マチス


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