ランボオの故郷シャルルヴィル(1)

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ランボオの故郷シャルルヴィル

 一九七四年八月十六日
 パリの東駅(ガール・レスト)から、ランボオの生地シャルルヴィル──いまはシャルルヴィル・メッチエールと呼ばれている──へ向う。東駅(ガール・レスト)は、ギリシャ風なレリーフの正面(フロントン)をもった、がらんとした古い大きな建物である。およそ百年前、家出したランボオは無銭乗車でこの駅に着いたところを捕まって、マザスの牢獄へぶちこまれたのだった。そんなことを想いながら、わたしは古ぼけた急行に乗った。シャルルヴィルは、パリから急行で二時間半ほどの距離で、もうベルギーとの国境にちかい。パリをはなれると、なだらかで広い小麦畑、とうむろこし畑、ぶどう畑が、これまた広大な森とこもごもにつづく……部落や人家というものが、たいへん少ない。ひろいぶどう畑のうえに、ランスのカテドラルの尖塔がひょっこりと現われたりした。あたりはもうアルデンヌの野である。

 「風をはいた男」ランボオが、パリをめざしてかぜのように歩いた野である。そうして、普仏戦争や二回にわたる世界大戦で、激戦地となったところであり、第二次大戦ではドイツの機械化部隊は、ムーズ河を渡って、この美しい野に轍(わだち)の跡を刻み、パリに向けて怒涛の進撃をした。しかし、いまはそんな爪跡は見えない。ほとんど山も見えず、ときおり低いなだらかな丘が見えるばかり。川も濃いみどり色によどんだまま、流れるともなく、ゆっくりと流れている。ときおり、岸べや舟で、釣り糸を垂れているひとが見える。

 シャルルヴィルの駅は、アルデンヌ県の県庁所在地にしては貧弱な印象を与える小さな駅だ。駅前には、小さな音楽堂のある小さな辻公園があった。ランボオが『音楽堂で』という詩で歌った、その辻公園そのままである。

   音楽堂で
          シャルルヴィル駅前広場

  木立も花も みんな こぎれいな辻公園
  見すぼらしい芝生をあしらった 広場のうえ
  毎木曜日の夕ぐれ 暑さにうだったブルジョワどもが
  喘(あ)えぎ喘(あ)えぎ 愚劣さを大事にかかえてやってくる

  公園のまんなかでは 軍楽隊が 軍帽を振りふり
  「横笛のワルツ」などを かなでている
  そのまわり いちばん前には きざな洒落者が陣どり
  公証人は 頭文字のついた鎖などをぶらさげている

  鼻めがねをかけた金利生活者(くらし)は 調子っぱずれの音楽に聞き入り
  でっぷり ふとった役人は でぶっちょの細君と連れ立ち
  そのわきを おせっかいな案内人たちが歩いてゆく
  細君たちの裾飾りは 広告のように あでやかだ

  緑のベンチのうえには、乾物屋の隠居どもが集まり
  握りのついたステッキで 砂地をかきたてながら
  ひどく大まじめに 講和条約などを論じ合っている
  銀の嗅(か)ぎたばこ入れを嗅(か)いでは また始める「つまり……」

  はでなボタンを飾りつけ フラマン風な太鼓腹をした
  ブルジョワがひとり 丸い尻をどっかとベンチに据えて
  こぼれるばかり 煙草をつめたパイプをふかしている
  ──おわかりかな これは 密輸入ものですぜ!

  緑の芝生のふちでは ちんぴらどもがひやかし笑い
  トロンボーンの歌をきいて 恋ごころをあふられた
  うぶな兵隊どもは ばらの香りを吸いながら
  子守女をくどこうと 赤ん坊らをあやしている

  ──おれはといえば 学生のようにだらしない身なりで
  緑のマロニエの下で すばしっこい小娘たちを追い廻す
  彼女たちはそれを承知で 笑いながら振り返える
  いたずらっぽい 色気たっぷりのながし目で

  おれは ものも言わずに じっと見つめるのだ
  みだれ髪のしたにのぞいた 白いうなじを
  彼女たちの胴着や うすい衣装のしたの
  まるい肩から みごとな背なかを 目で追うのだ

  おれはすばやく 小さな靴や靴下まで見ねまわし
  美しい熱の燃えるからだを 胸に思い描いてみる
  彼女たちは おかしな男と思って ささやき合い
  おれの激しい欲望はもう 彼女らの唇に吸いついて離れない……

 少し長く引用したが、それはランボオが自分の町のブルジョワたちを描いているそのレアリズムと、彼の反抗の精神をちょっとばかし思い出すためである。
(つづく)

(自筆原稿)

(「詩と詩人たちのふるさと──わがヨーロッパ紀行」)

シャルルヴィル


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