グラナダ紀行(3)ロルカの家

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ロルカの家

 翌日の朝、ロルカの家を訪ねるべく、グラナダ郊外のフェンテ・ヴァケーロス村へとタクシーを走らせた。ちょっとした工場地帯を抜けると、オリーヴ畑があったり、丈の高いポプラ林のあいだに農地が広がっている。行手に、禿山が、やわらかい線を描いて現われる。ずんぐりとして太い大根を満載したトラックと、何回もすれちがう。恐らく砂糖大根を工場へ運ぶのにちがいない。ギュヴィックが砂糖大根のことを詩にかいていたのを思い出した。やがて街道から左に折れてしばらく行くと、白い家々をつらねた、フェンテ・ヴアケーロスの村にはいる。ひろい広場があって、小さな木がそこここに立っている。陽の輝く午前なのに、村の人々が三々五々、連れ立って、この広場でおしゃべりをしている。タクシーの運転手が、ロルカの家をきき出してくれた。広場から左にちょっとはいったところに、やはり白い家がひとかたまりつづき、そのひとつの家に、「フェデリコ・ガルシア・ロルカの家」としるした銅版がかかっていた。わたしたちが写真に撮っていると、この家の現在の住人らしい老人が出てきて、黙って向うの方へ歩いてゆく。「わたしらをそっとして置いてくれ」と言いたげに。そこへ、ぼろをまとった、大柄で赤ら顔のジプシー女が出てきて、大声で何かまくしたてた。わたしはとっさに、そのジプシー女をカメラに収めた。すると、そばに立っていた、やはりジプシーらしい二人の若者といっしょになって、そのジプシー女が、わたしたちに手のひらを差し出してきた。カメラに撮った、そのモデル代を出せ、というのだ。わたしたちは何がしかのペセタをその手のひらにのせてやった……ジプシーたちは、働く仕事もなく、貧しいままに、村の広場に集って、おしゃべりなどをしているのかも知れない。そういえば、アランブラ宮殿の近くで、来かかった二人の若い男に道をきいたら、たちどころに、かくし持っていた靴みがき台を出して、靴をみがき始めた。あっけにとられているわたしたちに、しかも二○○ペセタを要求してくる。……この二人もジプシーだったのだ。こうしてみると、ロルカが「ジプシーの歌」を書いた、その源泉が肌に感じられるような思いであった。
 ロルカは「栗色の歌」という詩で、栗色の女をうたっているが、あるいは彼女もまたジプシー女だったのかも知れない。

   栗色の歌
         フェデリコ・ガルシア・ロルカ

  わたしはふみ迷い 消え入る
  栗色の おまえの 大陸に
  マリア・デル・カルメンよ

  ほかのものに見とれて うつろな
  おまえの眼の中に わたしは消え入る

  おまえの腕の中に わたしは消え入る
  空気までも 栗色に染めて

  そよ風が なぶっている
  おまえの肌の そのうぶ毛を

  わたしは 滑りこみ 消え入る
  むっちりと 息づき はずむ
  おまえの ニつの乳房のあいだから
  おまえの甘いからだの 暗い深みへ

(つづく)

(『詩人会議』 1979年4月)

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