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黒い季節(一九四四年 フレーヌの牢獄にて)

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黒い季節1


黒い季節



(『詩人会議』1977年3月)

夜 




フランス・レジスタンスの詩
黒い季節(一九四四年 フレーヌの牢獄にて)  ルネ・ラコート

また夜がふけた わたしにはわからない
どれが くらやみとわたしとの境なのか

わたしの胸にうずく この咬み傷は 
けっして夜の寒さのせいなどではない

森のなかに 潮騒のようなどよめきを
あげるのは 海ではない

夜ごと ひとつの声があがる
だが それは 死刑囚の歌だ
    *
わたしは思い描く 牢獄の壁のあいだを
ゆっくりと廻わる舟のような女の肉体(からだ)を

だが 失った幸福のそばで
魔法使いは 死んでゆく

火もひかりもパンもない冬のさなかに
だれがわたしのことを想ってくれよう?

フランスのすべての地平で
まなざしが夜とたたかっている

廃墟のなかでの にがい想いは
わたしの孤独なんかより 堪えがたい

武装したひとりの男は
反抗に立ち上った大地とひとっになる

かれは砂漢のなかのひとつの神だ
かれにはもう 妹も子供もないのだ

世界のすべての牢獄で みんなが
おんなじ否(ノン)で答える 戦争犯罪人に
    *
生身が 囚われてとどまるところ
ここから 言葉が始まる

わたしは われとわが身うちに聞く
ひとの名においては語らぬ 嵐の声を

傷だらけで 顔かたちも変ってしまった
こんな顔は わたしの顔ではない

人類の孤独のうえを吹く 怒りの風のなかで
この顔は ひとりぼっちだ

想いは おのれじしんを夢みる
眼にみえぬ鏡のふちで

想いは ふしぎな炎を残してゆく
忘却の川のなかに

ますます暗くなる夜へと通ずる道を
わたしは じっと見張っている

さあ 立ち上る時だ アンヌ わが幻の妹よ
だれでもわたしの方へ やって来はしない

いたるところ辱かしめられたこの世界で
わたしが抱くのは 人間のイメージばかり

だが わたしの愛するものが
くらやみの苦しみの中から 生れようとしている

人めいめいの 顔のなかには
読みとれぬような 幸福(しあわせ)がある

墓石の下に眠っている火を立ち上がらせるのだ
しいたげられたひとたちを 昂然と

この世紀は わたしをわれに返えらせてくれた
たたかう人民の 希望によって

いつか 平和な建設の時代がやってきたら
わたしの生を 思い出してほしい
いたるところ 雪のうえに
おのれの血で武装した手がある

女や子どもの名まえのなかには 
何か 魔法のようなものがある


 ルネ・ラコート(一九一三〜一九七一)──博学な詩人で、パリで古本屋をいとなんでいた。店はレジスタンスの連絡場となり、」会合の場所となった。一九四四年の初め、ロベール・デスノスと同じ日に、パリで逮捕され、フレーヌの牢獄に送られたが、証拠不十分で釈放された。その後「レットル・フランセーズ」紙の詩の批評を担当した。


(『詩人会議』1977年3月)


 
 
 
 
 
 
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