『ホアキン・ムリエタの栄光と死』(下)

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ムリエタ1


ムリエタ2



    ムリエタの首は語る

  だれもおれに耳をかさないが おれはしゃべることができる
  くらやみのなかの子どもは 死んでしまった
  なぜおれは死んで あてどもなく砂漠のなかを
  さまよいつづけるのか おれにはわからない

  愛して愛して おれは悲しみにたどり着いた
  闘って闘って おれはうちのめされてしまった
  そしていまや テレサの両の手のなかに
  おれという ひとりの悪党の首は眠るのだ

  おれがぶっ倒れると おれは咽喉(のど)をかっ切られ
  おれのからだはまず まっ二つに切り離された
  おれは 完全犯罪のために叫ぶのではない
  おれは さまようおれの愛のために抗議するだけだ

  死んだ妻がおれを待っていた そしておれは
  険(けわ)しい道をとおって たどり着いたのだ
  死んだ妻といっしょになるために おれは·
  ひとを殺し自分も死にながら たどり着いたのだ

  おれはもう 血も流れさった空っぽの頭に過ぎぬ
  くちびるももう おれの声をきいても動かない
  死者はもう 何も言ってはならないのだろう
  雨や風をとおして 語りかけるというほかは

  だが これから霧のなかをやってくる人びとは
  どのようにして ありのままの真実を知るのだろう?
  同志たち おれは要求するのだ 一○○年後に
  パプロ・ネルーダが おれのために歌ってくれることを

  それは おれが犯した あるいは犯さなかった悪のためではない
  それはまた おれが守った善のためでもない
  おれが持っていた 唯一のものを失ったとき
  ただ 名誉だけがおれの権利だったからだ

  こうして ゆるぎないたしかな春のなかに
  時は流さり おれの生涯はひとに知られるだろう
  それは苦(にが)い人生でもなく 正義にみちたものでもなかった
  おれはおれの人生を 勝ったとも負けたとも思わぬ

  そして過ぎさってゆく すべての人生のように
  おれの人生も きっと夢といりまじっていた
  血の好きな残忍なやつらが おれの夢を殺した
  そしておれは遺産として残すのだ おれの深傷(ふかで)を

 ここでネルーダは、詩人の声をとおして、ムリエタの伝説の真実をとおして、アメリカ大陸における奴隷制・圧制を告発し、一時的な敗北を越えて、来るべき闘争に立ちあがるよう呼びかけているのである。
(この項おわり)

(新日本新書『パブロ・ネルーダ』)

男

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