『一〇〇の愛のソネット』(2)デリア・デル・カリル

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イスラ・ネグラの思い出


(2)デリア・デル・カリル

 アルゼンチンが与えた「蟻さん」──デリア・デル・カリルとネルーダは、スペイン市民戦争で知りあい、その後の苦難の一五年をともにする。詩人は彼女にも多くの詩をささげている。

  きみはやってきた 広い国から
  わたしの方へ
  ひろくひろがり
  小麦粉の未来へとひらいた
  黄金色の麦畑のような
  広いこころをもって
  牧場に降る雨ほどに
  やさしいものはない
  滴(しずく)はゆっくりと落ちて
  空地や堆肥や静けさに沁みこみ
  家畜の群をめざめさせる……

  そのとき戦争がやってきた
  わたしたちは二人で戸口に出て迎えた
  戦争は 死にながら歌っている
  はかない聖処女のように見えた
  雪のうえの青い硝煙や炸裂は
  なんと美しく見えたことだろう
  だが とつぜん
  わたしたちの窓は壊された
  本棚のなかに弾丸がぶちこまれ
  街は生まなましい血の海となった
  戦争は微笑みではない
  讃美歌は眠りこみ
  兵隊の重い軍靴の下で大地は震えた
  死はひとつひとつの穂から
  実をもぎとって行った
  わたしらの友は帰って来なかった
  あの時は辛くて泣けなかった
  それからやがて涙が溢れ
  人間の誇りが泣いた
  わたしたちは敗北のなかで
  きっと気がつかなかったのだろう
  とてつもない大きな墓穴が口をひらき
  そのなかに人民や町まちが転がり落ちたのに
  あの日日は深い傷痕として心に残っている
  わたしたちにはその悲しみと灰が残っているのだ    (『イスラ・ネグラの思い出』)

 そこへチリ女のマチルデが現われる。ネルーダがカリルと離婚し、マチルデと正式に結婚したのは一九五五年である。そしてマチルデに『一○○の愛のソネット』(一九五九年刊行)がささげられる。
(つづく)

(新日本新書『パブロ・ネルーダ』)

デリア・デル・カリル
ネルーダとデリア・デル・カリル

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