『とりとめのない放浪』──(4)秋の遺言

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秋の遺言


 さて、この『とりとめのない放浪』は、この詩集にふくまれるユーモアによって知られている。しかもそれは死をも嘲笑して追い払おうというものものしいユーモアである。「秋の遺言」のなかに詩人は書く。

 マチルデ・ウルティアよ もしもきみが
 あの燃える落葉の匂いや
 あの野いちごの香りをその身につけ
 きみの二つの海の乳房のあいだに
 カウケネスのたそがれと
 チリ・クスノキの匂いを秘めているなら
 わたしはきみに何を残すことができよう

 もしもいつかわたしたちがいなくなり
 行ったり来たりしなくなるなら
 塵(ちり)あくたの七つのマントの下で
 死の乾いた足の下で
 恋人よ わたしたちはいっしょに
 驚くほどに溶けあうだろう
 わたしたちのちがった棘
 見上げることもできぬ眼
 見わけもつかぬわたしたちの足
 忘れがたいわたしたちのくちづけ
 ついにみんなひとつに結びつけられるだろう
 しかし 墓場のなかでひとつになったとて
 わたしたちに何んの役に立とう
 生がわたしたちを引き離さないように
 死なんか とっとと消えうせるがいい!

そして詩人はこの世への告別の言葉を書きのこす。

 いまや この原稿紙をあとに
 わたしは出てゆくが消えはしないだろう
 わたしは透明のなかに躍りこむだろう
 空を泳ぐ男のように
 そしてわたしは再び大きくなり それから
 いつかごく小さなものとなり
 風がわたしを連れさるだろう
 わたしは自分の名をもはや知らないだろう 
 わたしはいつ目覚めるかもはや知らないだろう

 そのときわたしは黙って歌っているだろう

(この項おわり)

(新日本新書『パブロ・ネルーダ』)
 
夕暮れ

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