ジアン川の娘

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ジアン川の娘──若い舟乗りの物語より──
                          ルウ・チョン・ル

戦闘は ひる頃
ひときわ はげしくなった
見張台の上で
ひどくやられたおれは
村の病舎にかつぎこまれた

息ぐるしい夏の夜
おれのからだから血が流れつづける
苦しい発作のあいまに
ふと眼をあげておれは見た
ひと影が 若い娘が
おれの寝床のわきに坐って
おやみなくおれを扇いでいるのを
銃が枕もとにたてかけてある
年頃は 十五か十六
髪が肩までたれている

きみは誰なの?
どこの舟着場で出合った娘さんだろうか
ミン・カムだったか カイン・ホアだったか
トウ・ゴアか トォン・バイだったか
おれにはもう思い出せない……
    *
とある四月の朝
おれたちは朝めしをたべていた
そこへ強盗どもの飛行機が
編隊で ひっきりなしにやってきて
おれたちの川を爆撃した
爆風が カムフラージの木の枝を焼き
爆音が 村の竹林をめちゃめちゃにした……
ジアンの流れは赤い波でさかまいた

おれたちの舟は
両岸をたよりに
レソンからバンフヘと行った
まるで 十里の流れのうえに
しっかりと身をささえた火の竜のように
おれたちの舟は 最初から
敵をさんざんにやっつけた
川のまんなかに
赤い血が流れたとき
怒りは 焼ける砲口からほとばしり出た
砲弾はとぼしかったが 英雄たちはたくさんいた……

そのとき 両岸には
いくつもの小隊が
部署について
敵をねらっていた
弾薬がなくなっても
手は銃をはなさなかった
両岸沿いの
十里もの路上では
年とったおばあさんや子供たちが
たえずおれたちの舟をはげましていた

そこに 十六か十五の娘がいた
庭から惜しげもなく折ってきた蜜柑の枝で
彼女は舟にみごとなカムフラージをした
彼女が愛する船体をおおい包んだのは
たんに蜜柑の枝だけではなかった
彼女の青春と
彼女の若いからだでおおったのだ!
誰かが彼女をよんで言った
「強盗どもがおまえさんの家を焼いているぞ」
彼女はたちどころに答えた
「家なんか燃えても また建てられます
戦士のいのちと舟の運命があぶないのに
家なんかなんでしょう」
爆弾をものともせず
血走った眼で 彼女は前進をつづけた
強盗どもが追い散らされ
夕ぐれが戦場にやってきたが
舟着場は相変らずごったがえしていた
負傷者の面倒をみたのはきみだったんだ?……
おれをその軽やかな手で起してくれたのも
きみだったんだね?

いまおれは思い出す あれはきみだったんだ
銃を肩にかつぎ
髪を風になびかせて
昼は 強盗どもを追い散らし
夜は こうしておれを扇いでくれている

……にわとりが村のなかで鳴いた
二度目に おれは目をさまして
きみがそこに相変らず坐っているのを見た
寝床のかたわらに 銑といっしょに
きみの針もつ指の下で
縫目が軽やかに波うつ

その火薬で黒くこげた上着は誰れの?
きみは手をとめ 眼がばっと輝やく
何を探すのか きみはあたりを見廻す
そしてまたおれは扇ぐ音をきく
夢のなかで 神の声をきくように……
眠れ 小さな妹よ 清らかに眠れ
おれたちの舟が勝利したように
おれは負傷にうちかつだろう
寝床の足もとに
朝の太陽が 金いろの光りをそそぐ
眠れ 小さな妹よ
    *
おれの傷はなおった
おれはふとぼろぼろになった手帳をひらいて
誰が書いたのか つぎのような文句に気づいた
「兄弟 あなたは多くの試練に耐えてきました
わたしたち妹は それを分けあわねばなりません
今夜 あなたのそばでわたしはねずに看病しました
もう帰らねばなりません さようなら」
字もみごとだ なぜきみは名まえを書かないのか
どの舟着場へ きみはもどって行ったのだろう?
トウ・ゴアか チャン・バイか
それとも ミン・カムか カイン・ホアか?
うつくしい人民の娘たちは
まるで天女のようにここへやってきて
白鳥の羽根ひとつ残さず 行ってしまう……

おれがいつも着ているこの古い上衣には
あの十六か十五の娘がかがってくれた
縫い目と継ぎあてが残っている
あの娘のいるのは ミン・カムか カン・ホアか
それともチョオ・ゴアか チャン・バイか
あのあたり水は鏡のようだ
おれたちの舟は曲りくねった流れを進む
おれはまた見張台にもどる
川のうえ
青空には 銀色の雲
波うった うつくしい髪……
きみはどこにいるのだろう
ラジオで放送でもしているのか それとも働いているのだろうか
戦火のなかで おれはいつもきみを探しつづけるのだ

(『ベトナム詩集』飯塚書店 1968年)

ベトナム
射撃訓練をするハノイ機会整備工場の女性自警団員 1967年 ハノイ マイ・ナム(ベトナム写真展 2006年)

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