最後のうた

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 最後のうた
                 大島博光

わたしは紡ぐ 最後のうたを
ひとつまたひとつ 別れのうたを
糸縒車(いとよりぐるま)は 最後のときへ
軋んで廻わる 別れのときへ
     *
老いの地獄を ひとは歌わない
老いの涙を ひとは語らない
それは 語るにあたいしないの
それとも 語るべきではないのか

だがそれは だれにもやってくる
いやでもおうでも いつかやってくる
それは 越さねばならぬ峠道だ
死へとむかう最後の港だ
     *
前に話したことを忘れて 
おんなじことをまたくりかえして
くどくどとこぼす 老いの泣き言
わたしの歌も老いの繰り言
     *
木の葉はみんな枯れて飛び散った
小鳥はみんな遠く飛び去った
枯れ枝に残った巣藁ひとつ
枯れ木は 風のなかにひとり立つ

はるのかおりのかぜにふかれて
ことりのこえをこずえにきいて 
枯れ枝さえも身を顫わせる
あの青の日の樹液を恋うる

むかしの春はもうもどらない
萎れたバラは散るほかはない
死んだこだまはこたえてくれぬ
きみはひとりで老いねばならぬ

壁に手をあて伝って歩き
しびれる足でのろのろ歩き
亡者をまねて行かねばならぬ
ひとり暮しで生きねばならぬ

そこにはなんのなぐさめもない
そこにはどんな癒しもない
この夕ぐれのうすらやみには
ひとり残った この砂漠には

おのれひとりの闇にとらわれ
おのれひとりの涙におぼれ
きみの弱さが弱音をあげる
そよぐ風にもゆらぎふるえる

妻に死なれて あとに残って
ひとり暮らしは きみひとりでない
みんな涙を じっとこらえて
きみのようには 泣きわめかない

見さかいもなく泣きくれるのを
ましてや歌ですすり泣くのを
この歌の国で ひとはさげすむ
フクロウの歌をみんなが憎む

老いの地獄のどん底など 
あの世の妻を恋うる歌など
いくら書いてもけりがつかない
いまオルフェのうたははやらない

「この世紀 泣いてはならない 
泣くのはなんの役にも立たない」*
このアラゴンの言葉を いまこそ
思い出したまえ 泣いてる男よ

愚かなことだ 詩人の任務を
忘れさるとは ヒバリのうたを
詩人は ひとになみだを見せない
詩人は ひとに夢しか見せない

愚かなことだ 理性をなくすとは
なみだのなかに溺れ込むとは
たとえそれが 妻の死であれ
孤独の夜のはてなさであれ

きみにも太陽があったのに
その太陽を見うしなうほどに
妻をなくしたそのくらやみは 
深かったと言うのか きみは

泣かず逃げずに 生きぬくことだ
耐えるとは絶望しないことだ
さあ 暗い穴から這いあがろう
そうしてみんなの地平へ出て行こう

忘れるな 大きく生きたまえと
きみをはげましてくれるものを
めざして行こう 伝え歩きでも
あけぼのの方へ いざってでも

 * アラゴンの詩集『詩人たち』のなかの詩句

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