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ミノトール─ピカソの素描「ミノトール」の一つに寄せて

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ミノトール ─ピカソの素描「ミノトール」の一つに寄せて
                                  大島博光

老いぼれて 盲(めし)いた 牡牛男(ミノトール)よ
杖をついて きみは夜をよろめき歩く
盲いた眼を天に向けて 喚(おら)び呻く

きのうまで きみの手をとって
蝋燭をかざして みちびいてくれた
あのやさしい娘は もういない

やさしいあの娘が いないのは
きみが彼女を食ってしまったから
彼女のねがいには 耳をかさずに

彼女のこころには 眼もくれずに
おのれひとりの欲望に駆られて
きみが彼女を食ってしまったから

これからきみはひとりゆくのだ
暗い暗い地獄の責苦の道を
愛もない悔恨の夜のなかを

老いぼれて 盲いた 牡牛男(ミノトール)よ
声も涸れて咽喉(のど)で呻きおらぶがいい
おのれの闇の深さを 罪の深さを

失ったあの娘の愛の
春の海のような深さを
失ってしまったきみの無限を

              一九九七年

 (「稜線」)

<参考>新聞連載「私のピカソ」小娘にみちびかれる盲目のミノトール
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コメント
この記事へのコメント
一度にこんなに大切な物を載せてはもったいなすぎる。14日分のブログを読んでしまったようだ。
と、言いながら、もしこれが途中で終わっていたとしたら、それはそれで眠れなくなってしまうほどの飢えになってしまうだろうが。
ピカソに、改めて驚く。ピカソをこういう形で語ることにさらに驚く。
「永遠の青年」たちは、一体どれほどのエネルギーを持っていたのか。
エネルギーを持っていたのか、常に新しいエネルギーを蓄える術を知っていたのか。
「犬と格闘する女」はピカソと格闘する博光に見えたりして、その放出されるすさまじいエネルギーにただ圧倒される。
圧倒されながら私の中にわき上がる物に酔っぱらってしまいそうだ。
2009/10/30(金) 01:43 | URL | #-[ 編集]
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