「ジャンヌ・マリーの手」 5) ジャンヌ・マリーの手

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5)ジャンヌ・マリーの手

 そしてわれらのランボオも、闘うコミューヌの女を歌っている。「ジャンヌ・マリーの手」がそれである。

    ジャンヌ・マリーの手

 ジャンヌ・マリーは逞しい手をもつ
 夏がなめした かぐろい手を
 死者の手のような 蒼ざめた手を
 ──これこそジュアナ(注1)の手ではないか

 この手は 悦楽の沼のうえの
 褐色(かちいろ)のクリームを すくったのか
 この手は 澄んだ池に降りそそぐ
 月のひかりに 浸(ひた)ったのか

 愛くるしい膝のうえの静かな
 この手は 荒あらしい空から飲んだのか
 この手は 葉巻を巻いたのか
 また ダイヤモンドを売ったのか
 …………………………………………

 おお 手足を伸ばして眠るとき
 この手を捉えるのは どんな夢か
 とてつもない アジアの夢か または
 ケンガヴァール(注2)の夢か シオンの夢か
 この手は オレンジなど売らなかった
 神がみのように 日にも焼けなかった
 この手は眼も開かない小さな
 赤ん坊のおむつなど 洗わなかった

 これは従姉妹(いとこ)の手ではない
 工場の臭いの たちこめる森で
 瀝青(タール)に酔っばらった太陽に灼かれる
 おでこの大きな 女労働者の手でもない
 これは 背骨をうち割る手だ
 機械よりも 破壊的な
 馬よりも 力強い
 けっして 悪を働かない手だ
 坩堝(るつぼ)のように 煮えたぎり
 身をわなわなと 顫わせながら
 その肉は 「マルセイエーズ」を歌い
 けっして 讃美歌などは歌わぬ
  …………………………………………

 民衆のしみが この手を
 きのうの乳房のように 褐色にする
 その手の甲は 誇らかな反抗者が
 そこにくちづけした 場所だ!
 すばらしいこの手は 蒼ざめた
 愛にみちた まひるの太陽の下で
 蜂起したパリを駆けめぐった
 青銅の ミトライユーズ砲の上で

 おお 聖なる手よ そこにくちづけて
 おれたちの唇がうっとり顫える 手よ
 ああ 時おり おまえの手首のうえに
 輪の色も鮮やかな鎖が 鳴りひびく!

 そしてそなたの指から 血が流れ
 陽焼けした色が 色褪せてゆくとき
 おお 天使の手よ ふしぎな痙攣が
 おれたちの身ぬちを 突っ走るのだ!

注1 ジュアナ──このスペイン名前は、ドン・ジュアン (ドン・ファン)の女性名。この詩が想を得たといわれるゴーティエの「手の習作」のなかのドン・ジュアンを思い出させるという批評家もいれば、葉巻女工カルメンを思わせるという者もいる。
注2 ケンガヴァール──ペルシャの町の名前。

 ジャンヌ・マリーの名はコミューヌのバリケードで闘ったパリの女たちの象徴であろう。
(この項おわり)

(新日本新書『ランボオ』)

赤バラ


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