5)『グレヴァン博物館」 われらの黙示録が始まって……

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5)グレヴァン博物館

    われらの黙示録が始まって……

われらの黙示録が始まって 四度めの夏
ふしぎな うすら明りが地平線に現われた

いまや くらい日蝕も 終りに近づいたのか
あかるい希望が 牢獄の藁のなかにも脈うつ

きくがいい 風にきしむ戸のように呻く夜を
あけぼのが 人殺しどもを青ざめさせるのだ

おびえた王侯たちが護衛をつれてご帰館になる
血まみれの服を洗っている 奥方のところへ

いままでの彼らの領地 恐怖の帝国に
せきをきったように ちがった話声が流れる

はじめて 殺すためでない 人間らしい言葉が
暴君どもの くちびるを ひらかせる

彼らは免罪権を云々し 気が狂っていたんだという
きょうもどこかで 子どもが死んでゆくときに

これからは 恋の歌を甘くささやくがいい
その偉大な胸ははり裂けると 世に証(あか)すがいい

だがついに 隈(くま)どりをした道化顔の下に 素顔はのぞく
彼らの人殺しは数えられ 帳簿は閉ぢられたのだ

彼らは 犯罪をもって犯罪の口実としながら
ひとびとの呻き怨む声に うち興じていたのだ

かつてわれらは 彼らの馬どもの秣(まぐさ)集め隊だったが
彼らの戦車隊や陰惨な仕打ちにも毅然として立っていた

権力は掟となって 精神を辱しめふみにじった
彼らはおのれの法律を拒むものを気違いだと笑った

彼らの形面上学では すべてが変るためには
見せかけの光りが作られるだけで 十分だった

彼らの哲学では すべてが変るためには
音楽をちょっと変えるだけで 十分だった

なんと奇妙な時代の 奇妙な季節だろう 
狼が森の中を 説教してまわりたいというのだ

まるでぼろぼろに裂けて 綿のはみでた座布団だ
誰の眼にも その腹と秘密がまる見えなのだ

ヨーロッパの四辻で 演説をぶってる男たち
だが 事業をしくじった絶望はかくしきれない

博愛家の燕尾服をきた 案山子(かがし)たちも
夜明けには 首を吊ったようなふりをしている

敗北は彼らの頭上にあるのに 信じようともせず
彼らは 折れた剣を 風に向かってふりまわす

しかし、彼らをとりまいた群衆は 生きた鏡だ 
彼はもう首を切り落とされた姿で映っているのだ

むだなことだ 大言壮語でひとをあざむこうと
夜明けは 恐(おそ)ろしいものだと言いふらそうと

むだなことだ いまさらいつくしみの手袋をはめようと
天命をうけてやってきたなどと 言いはろうと

むだなことだ 無知を美徳の列に祭りあげようと
くらやみを 光りだなどと 言いくるめようと

おのれの葬式の重い足どりをわれらにおしつけようと
異国の神々を われらの銅像にとって代えようと

臆病であれと教えようと 奴隷根性を吹きこもうと
いたるところに 恐怖の風をあふりたてようと

男を牢獄に 女をやもめ暮らしに おとしいれようと
すべてを汚し 台なしにし 辱しめようと

むだなことだ いまなおおのれの憲兵に命令しようと
むだなことだ 戦利品に腰かけて眠りこけようと

彼らは じぶんの涙の色をかくすことができない
まちがいなく 夜のあとには朝がやってくる

あけぼのはその赤銅の手をさしこんで焼きつくすのだ
あのくらやみの王どもと その腐った合唱隊とを

あのにせの十字軍 妖怪変化のぺてん師どもから
怒りに燃える大地は 解き放たれねばならない

彼らには恐ろしいのだ 息づくすべてのものが
ゆりかごのほとりの子守り歌が 夏の小鳥さえが

脈うつ心臓の音にもおびえて 身をかくす
すべてが物の化に 鎖に 幽霊屋敷に見えるのだ

眠りの中できく足音も 見張りにやってくるようだ
いったいどんな夢をみて あんなに寝がえりをうつのか

彼らの思い出は火の中 こころには棘(とげ)だらけ
こんどは彼らの番だ 誰かが彼らを責め殺すのだ

誰の眼にも見える 白い鳥について語っている
その地獄の口から 毒蛇が這いだしてゆくのが

誰の眼にも見える 彼らのうしろで殉難者たちが
親指をそらして 血まみれの合図をしているのが

誰の眼にも見える 裏切者たちの暗い眼ざめが
太陽にあばき出されて あわてふためくその姿が

誰の眼にも見える 牧師が彼らのわきで悲劇的に
くちづけするようにと 十字架をさしだす姿が

誰の眼にも見える 未来におびえおののく彼らの姿が
誰の眼にも見える 刑車(くるま)が彼らの上をまわるのが

誰の眼にも見える これら死刑囚どもの姿が
そして弾丸(たま)にぶちぬかれて 黒い血の吹き出すのが

彼らは やがてやってくる判決の 恐ろしい焼印を
その肉に焼きつけられて もう塗りかくすこともできぬ

ロボットたちの額を照らす 蠟燭明りのなか
彼らはもう集合しているのだ グレヴァン博物館に向かって

☆グレヴァン博物館 一八八二年に漫画家アルフレッド・グレヴァンによってパリのモンマルトルに設立された蠟人形の陳列館。アラゴンはこの詩集で、ナチスの協力者たちを蠟人形館行きのロボットとして痛烈に風刺している。
(つづく)
(『アラゴンとエルザ 抵抗と愛の讃歌』)

池

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