地下生活と『グレヴァン博物館』3)ドロームの隠れ家「天国」とリヨンの別荘

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3)ドロームの隠れ家「天国」とリヨンの別荘

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 一九四二年十一月十一日、イタリア軍がニースに侵入してきたため、エルザとアラゴンは、最後の列車でニースを離れて、地下にもぐることになる。かれらはディニュで下車し、そこから自動車でアヴィニョンに行き、ピエール・セゲールスに会う。そこから、前もって借りてあったドロームの家へ行って、そこで二カ月を過す。このドロームの家について、エルザはこう書いている。
 「隠れ家は、ディウルフィの上方の、山の中にあって、そこへ辿りつくには、歩いてゆくよりほかなかった。わたしたちはこの隠れ家を、陰謀めかしく「天国」と呼んだ。それは、三つの村をむすぶ四つ辻に、ぽつんと立った廃屋(あばらや)だった。だから、三つの村のどれに属するのか、はっきりとはわからなかった。まるで、だれも気にとめないような家だった。
 一九四二年の、冬の雪のなかに埋まって、世間から切り離されて、誰にも見つからず、どんな連絡もじっさいに不可能だった……だが、こんな状態をつづけるわけにはいかなかった。早急に、このうつろで奇妙な天国から降りて公然とは生きられないにもせよ、占領された下界を見つけねばならなかった。偽の身分証明書を手に入れるために、わたしはリヨンへ向った。
 書類をつくるに必要な時間(とき)をすごしたのち、わたしは、歩いたり、自動車(くるま)に乗ったり、汽車に乗ったり、ホテルや駅で夜を過ごしたり、骨の折れる辛(つら)い旅をして、白い孤独のなかへもどってきた。あなたは天国のふもとでわたしを待っていた。クリスマスの夜のなかを、長いこと、よじ登って、やっと辿りついたのは、三本の大きなポプラに守られたこのあばら家だった。あなたは、炉のなかで杜松(ねず)の薪を燃やした」

 この「天国」は、安全な隠れ家ではあっても、山の中にあったために地下活動をつづけるには不便でもあり、不可能でもあった。そこでかれらは、リヨンのモンシャにある「confluences」誌の編集者ルネ・タヴェルニェの家の屋根裏部屋を借りて住むことになる。そこに、一九四三年一月の始めから、七月末まで滞在する。この頃の思い出を、サドゥールはこう書いている。

 「わたしは連絡のためにしばしばリヨンへ行って、このモンシャの別荘の屋根裏部屋を訪れた。そこでエルザは、『白い馬』や『アヴィニョンの恋びとたち』の原稿をよんでくれた。アラゴンは、その頃マキ団(パルチザン)を組織した人たちを讃えて、『百の村の壮丁』をそこで書いた。
 リヨンの町を見おろすモンシャの小さな辻公園で、かれはわたしに、「しあわせな愛はどこにもない」を読んでくれ、それを聞いてわたしは泣いてしまった。この詩がひどく絶望的に思えて、わたしはかれに、この詩を発表しないように頼んだ。(その頼みはむだでもあり、まちがってもいた)
 わたしたちが、アウシュヴィッツの存在を知り、この収容所で友人のダニエル・カザノヴァとマイユ・ボリッツェルが死んだことを知ったのも、またこの町においてであった。八月の始めで、アラゴンとエルザが非合法にパリへ向って出発する時だった。列車のなかで、ルイ(アラゴン)は膝のうえで、もう書き終えたと思っていた長詩(「グレヴァン博物館」)に、つぎの八行の詩句を書き加えたのである。

  ああ 怖るべき種子(たね)まきが
  この長い夏を 血で色どる
  あまりにひどすぎる 聞けば
  ダニエルもマイユも殺(や)られたという

  奴らはひと切れひと切れ 切り刻むのか
  連れ去った わが優しいフランスを

  噂をきけば 悲惨なわれらの野に
  暗闇は 濃くなるばかり
                    (サドゥール『アラゴン』)

 つまり、のちに『フランスの起床ラッパ』に収められる詩のいくつかが書かれ、『グレヴァン博物館』が書かれたのは、この頃である。
(つづく)

(『アラゴンとエルザ 抵抗と愛の讃歌』)

カサノヴァ
Danielle Casanova
ダニエル・カサノヴァ、その顔は、人間の兄弟愛を永遠に象徴しています。
アウシュヴィッツの収容所で仲間を介抱した後、チフスで亡くなりました。
(マックス・ポル・フーシェ「レジスタンス」)


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