『エルザの眼』(14)エルザへの讃歌 4 エルザは言う

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四 エルザは言う

おまえは言う この詩はわかりにくいけれど
でも わたしが望んだほど難解じゃない(*1)みたい
盗まれた幸福の見える窓などは しめましょう
  陽が射しこんで あなたのお気に入りの
写真が 黄いろく ぼけてしまうから

おまえは言う わたしたちの愛が一つの世界をひらくなら
それは みんながよろこんで 卒直に話しあう世界です
もう お捨てになったら ランスロットや『円卓物語』は
  イゾルデ( *2)やヴィヴィアンヌやエスクラルモンドは
そんな曲った剣を 鏡にしたような人たちは

そんな人たちからでなく わたしの眼から愛を読みとってください 
そんな古いむかしの恋物語などに 酔わないでください
美しい廃墟も ひるま見れば ただの瓦磯の山です
  いまは わたしたちが 二つの影をもつ時です 
うまく 星占い師たちの眼を くらますために

暗い夜の方が 昼よりも魅力があるとでもいうのか知ら
澄みきった空(*3)を待ちこがれない人たちは恥知らずです
若僧などにたちまち まる腰にされてしまう人たち
  街にわき起った歌声にも 野に咲いた一輪の花にも 
涙ひとつ流さない人たちは 恥を知るがいいのです

おまえは言う しばらくは万雷(*4)の交響楽のとどろくにまかせましょう
こんな空模様では 辞書(じびき)をひいて調べることもできず
流行(はやり)の言葉に魅かれる 哀れな人たちがいるからです
  いまに その人たちも低い声でつぶやいて
頭をかしげて 考えこむかも知れないのです

わたしの愛がほしいなら その人たちがやってきて 
のどの渇きをうるおすような 澄んだ水をもってきて下さい 
どうか あなたの傷口から流れでる血で 詩を書いて下さい 
  そうして巣をつくる場所もない鳥たちのために 
屋根のうえの 屋根屋のように 歌ってください

わたしたちのみじめな足どりを報ずる 文芸欄の終りに
「次号につづく」とあるような希望を 歌ってください
人間の声は ラッパの音にうち勝つのだ という希望を 
  そうして生きる理由を 与えてください
なにもかもが 死への誘(いざな)いと見える人たちに

いたるところ 人びとがへとへとになって働き
血にまみれ 寒さに凍(こご)えてる 愛もない場所で
口ずさめば重い足も軽くなるような歌をうたってください
  明けがたの 濃い一杯のコーヒーのような
十字架への道で ひょっこり出会った友だちのような歌を

ほんとに誰のために歌ったら 歌い甲斐があるというのでしょう
あなたがいつも 夢にまでみる人たちのためでないとすれば
思い出せば 鎖(くさり)の音がひびいてくるような あの人たち  
  夜も あなたの血の中で眼ざめていて 帆に語る風のように
あなたの心に語りかける あの人たちのためでないとすれば

おまえは言う わたしの愛がほしいなら あなたを愛しましょう 
でも あなたが描いてくださる わたしの肖像には 
菊の花の奥にひそんでいる青虫のように その主題のなかに 
  かくれたも一つの主題を 描いてください 
そしていまに昇ってくる太陽にその愛を結びつけて下さいな

(*1) わたしが望んだほど難解ではない……──当時、ナチの検閲の眼をくらますために、できるだけ彼らにわからないような詩が要求されていた。
(*2) イゾルデヴィヴィアンヌやエスクラルモンド──中世の悲恋物語の主人公たち。 
(*3) 澄みきった空──ドイツの空軍機の飛ばない空を意味している。
(*4) 万雷の交響楽──ナチの暴虐を指す。
(つづく)

(『アラゴンとエルザ 抵抗と愛の讃歌』)

ゆうやけ



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