『エルザの眼』(13)エルザへの讃歌 3 星座

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 三 星座

エルザになら どんな言葉も大げさすぎはしない
おれは夢みるのだ 雲の衣(ころも)に包まれたエルザを
そんなかの女を見たら 翼をもった天使たちも 
  宝石ちりばめた燕たちも ねたみ うらやむだろう 
地上では 花花が 身の置き場もないと思うだろう 

おれは 硝子と くまつづらとで 詩を編もう 
人形師が妖精をつくるように 脚韻をふもう
また風のような吟遊詩人らしく 感興のおもむくままに
  緑のからす麦をぶちまけて 詩節をよせ集めよう
そうして この戦利品を おまえにささげよう

詩はふくれて おれを巻き込み 過を巻く
このセントローレンス河(*1)は 隣のナイヤガラへと流れこむ
溺れた者の 救いを求める鐘の音が鳴りひびく 
  母獅子を 呼ぶ 子獅子のように
おれはもう地上のことも 我慢つよい葡萄のことも忘れてしまう

いまや 空はひらけて 讃歌の湧きあがる国
おまえのうつくしい手から 雪のように光が降る
ひとを眠らせる クロロフォルムの指をしたおれの星よ
  どうしておれを 眠りこませようとするのか
ことあるごとに近よるおれを おまえは遠ざけるみたいだ

おまえの手を こんなに愛するおれが いままで 
その手について何も歌わなかったとは どうしたことか
いくたびおれは その手を握りしめて 暖めたことか
  あの地獄で 二人が凍(こご)え ふるえていたとき
おお 春を約束する おれのこころの桜草よ

すばらしいおまえの手を ほかの人たちも夢みた 
極楽鳥のように奔放で しなやかなその白い手を 
おれは 嫉妬ぶかく 後生大事に守ってきたのだ 
  秋も 夏も 春も 冬も ながいこと 
おまえの手を 何も歌えなかったほどに 愛してきたのだ

この手の秘めてる秘密は おれたちの時代を越えて 
恋人たちを導き 彼らはおれたちのことを語りあうだろう 
だが 嵐を知らぬ者に うつくしい太陽が何んだろう
  砂漠がなければ 歴気楼が何んだろう 
敗れて膝まずく時 ひとは偉大な祖国に気づくのだ

人間嫌いになるようなこの時代の 名づけようもない悲惨さに 
おれはおれたちの愛を結びつけよう おれたちの甥たちが
その愛の光に ひまわりのような眼を向けて
  ヨーロッパの夜を よく知ってくれるように 
おまえの風になびく髪のように 燃えあがる火明りで 

現代のへラクゥラヌゥム(*2)の都の 災禍(わざわい)にみちた空の中に
 燃える 菜の花畑のような ふさふさとした髪を
 おれは 最初に記録し 最初に 名づける
  天文家たちが きのうまで知らなかった
おまえの星座を 「エルザの髪座」と

おまえを捕えようと 星占い師(*3)たちは 星座表を見て
すっかりめんくらい おずおずと占うだろう
急(せ)きたてられる 空のおべっか使いどもは
  忠勤をはげもうと布告(ふれ)をだす 「一番乗りの栄冠は
最初の猟犬にとらせるぞ 運のいい兵士でもかまわない」

希望の空港よ おまえの誘導燈にみちびかれて いま着陸する
彼らの十二宮の間を 追いまわされてきた運命は
そうして われら二人の新紀元(*4)の新しい年が
  美しいオートジャイロのように せり上がる
牢獄(わびずまい)を暖めようと おまえが焚く火のほむらのなかに

*1 セントローレンス河──カナダの河。ここでは、ふくれあがった詩想の流れを河の流れにたとえ、詩想にゆきづまると、隣のナイヤガラ つまり隣室のエルザに助けを求めにゆくことを歌っている。
*2 へラクゥラヌゥム──イタリアの町。でんデツによれば、ヘラクレスによって創られたといわれる。紀元七九年、ベスビヤス火山の噴火によって、廃墟となる。
*3 星占い師たち──ナチとその手先の官憲を指している。
*4 新紀元──アラゴンが動員解除によって、戦線から帰えり、ふたたび二人の新しい生活が始まったことを指している。

(つづく)

(『アラゴンとエルザ 抵抗と愛の讃歌』)

軽井沢


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