『エルザの眼』(12)エルザへの讃歌 2 美女たち

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美女1


美女2



*1 シャリアール──『千一夜物語』のなかの暴君。夜ごとひとりの娘をはべらせ、恋物語をさせては、朝になると、部下に命じて処刑させた。ここではヒトラーを指している。
*2 「愛の物語りひとくだり」──註1を参照。ここでは、ナチの官憲を前にした、愛国者たちの祖国愛の陳述を意味している。
*3 「あの影も形もない」──「抗戦(レジスタンス)で倒れていった英雄たちが、その英雄的な死によって抵抗運動を鼓舞したことを想起されたい。 
*4 「南」の海──一九四○年、フランスの三分の二がドイツ軍に占領されたが、ロアール河以南の地は「自由地帯」として残された。「南」の海とは、この自由地帯を指している。 
*5 「ハラルの砂漢」──『地獄の季節』で有名な、フランス十九世紀末の天才詩人ランボオが、十九歳で 詩筆を投げすてて、フランスから脱け出して、行ったところ。アビシニァ──こんにちのエチオピアの都ハラル。 
*6 バミューダの島──大西洋の小さな島。 
*7 「フランチェスカとパオロ」──ダンテの『神曲』の『地獄篇』に歌われている、フランチェスカ・ダ・リミーニはランチオット・マラテスタの妻。義弟のパオロ・マラテスタと恋に落ちて、ともに処刑される。 
*8 ランスロット──中世の騎士道物語である『アーサ王の円卓騎士』の主要人物・王妃ギニヴィアに愛をささげ、純愛と忠誠を兼ねた騎士道精神の理想像として描かれている。
*9 リミーニ──註7を参照。イタリアの町。フランチェスカは、リミーニのフランチェスカと呼ばれた。
*10 べレニス──ユダヤのへロデ王の王女。ティトウスは彼女を妻にしようと思い、ローマに連れてくるが、ローマ人たちに反対されて、送りかえさねばならなかった。
*11 べロナ──ロメオとジュリエットの悲恋の、北イタリアの町。ロメオとジュリエットは、一つの墓に葬られる。
*12 エレーヌ──十六世紀のフランスの詩人ロンサールに霊感を与えた愛人エレーヌを指すものと思われる。
*13 ラウル──美女ラウルと呼ばれ、ペトラルカの詩に歌われている。 
*14 エルビル──ラマルチィヌが『瞑想集』のなかで歌っている美女。 
*15 マリアの月──聖母マリアを記念する月──五月
*16 コルドパ──スペインの町。

(『アラゴンとエルザ 抵抗と愛の讃歌』)

フルート




  二 美女たち

シャリアールよ シャリアールよ 打ちおろす斧を止めろ
おお 処刑される世界よ 土地はもう奪われてしまった
恋物語ひとくだり終れば この世に別れの最後の煙草
  だが ひそかに湧き起こる歌声に
空の果ての処刑台も おののきたじろぐのだ

八つ裂きにされた恋びとたち なんと極悪な恋物語だろう
それは ついいまもたくさんのくちづけが息絶えて行ったこの戦争で
試練に耐えている あの影も形もない死者が
  姿も見えぬあの死者が 苛むのを怖れてのこと
とおとい犠牲であがなったすべての歌でー

もう 「南」の海にも 幸福(しあわせ)な島などひとつもない
見るがいい このむごい夜明けを 朝の鳥を
怖るべき時がやってきた どんな孤独への逃避も
  どんなハラルの砂漠も バミューダの島も
人間と その運命とを まもることはできなかろう

何ものも守ってくれぬからには 身を粉にして戦うことだ
敗北の戦火の中でも せめて復讐に立ち上ることだ
征服者どもの泡のような勝利を 海は洗い流すだろう
  いつかひとは知ろう おれたち二人が
そこにいたということを だが征服者については何を知ろう

フランチェスカとパオロを永遠のものとした
不滅の仲立ち ランスロットの恋物語 
もしも かれらの唇がこの呪文の上に重ねられなかったならば
  いったい だれが 記憶にとどめただろう
かつて リミーニという町が あったということを

ベレニスの投げる影は ローマよりも大きく
血まみれのベロナには 一つの墓だけが残り
ひと殺しのアルプからは ラヴァンドの匂いが残っている
  これら 死のように強い かずかずの伝説よ
おれたちの愛の光は 青空をとりもどさずにはいなかろう

星たちを乗せたこの舟が ひっくり返ったら たいへんだ
おまえの名のついた舟だから 帆を上げろ 米など投げ捨てろ
ひとは見るだろう メーンマストに輝やくおまえの名を
  そこでエレーヌもラウルもエルビルも出てきて
マリアの月のように おまえを喜び迎えるだろう

かの女たちはエルザと言うだろう 言いにくい言葉のように
これからは エルザと言いおぼえねばならない
  エルザは まばたきする時の 暁毛(まつげ)のようだ
かの女たちは言うだろう エルザは 五月の月だと

かの女たちは言うだろう こう言ってもおかしくはない
エルザは ペルシャ絨毯のよう リヨン産の絹のよう
あのオレンジの花咲く コルドバのタ暮のよう
  納屋のほとりの 一本の菩提樹のよう
そうして 蝶の眼に映った 金粉のようだと

かの女たちは言うだろう この眼はあの人のお気にいりの眼だと
そこにおれもいて おまえの靴の紐(ひも)を結ぶだろう
つぶゃきあっているかの女たち──エルビルはあの品のよさを
  ラゥルは なんとも言えぬうちとけた魅力を
そうしてエレーヌは うつくしい髪をしている

かの女たち 二人姉妹をならべても おれはエルザを見わけよう
二人のちがったところ 似たところを言いあてよう
ひとりは金色の眼をもち ひとりはこの世と
  あの世とにひらいた 二つの窓のような眼をもつ
それは 夢で見たクリミヤの 気の遠くなるような青空だ

そうだ ここで二人の姉妹を結びつけるのが おれの戦略だ
おまえのように 歌われるために生れてきたリーリョは
かの女の詩人にい つまでも耳傾けているーおれの愛する
  その詩人は とあるタべ 自分の詩の上で死んだが
決死の若者たちは いまもその詩を彼らの流儀で歌っているのだ

だが おまえを悲しませるようなことは もう言うまい
氷の星が おまえの頬の上に きらりと光った
澄んだ青空に にじみ浮んだ涙は 藍玉のようだ
  そうして その胸にすすり泣きがこみあげると
おまえの眼の深みを 絶望(かなしみ)の輪(わ)が馳けめぐるのだ

守銭奴の死んだ後に金が残るように おれたちのあとに
生き残る君たち おれが美女賛歌を書き贈る君たちどうかおれの恋人に伝えてくれ給え その中からエルビルも
  エレーヌもリーリャもラウルも 抜かすわけにはゆかぬと
そうしてめかしこんだかの女を 太陽に近い座席につかせてやってくれ給え

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