『エルザの眼』(6)リベラックの教訓(つづき)

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 『リベラックの教訓』は、リベラックが生んだ中世の吟遊詩人アルノー・ダニエルや、クレチアン・ド・トロワを、博識を駆って論じてはいるが、その真の主題は、一九四〇年における詩人たちとその任務という問題にあることは疑いない。
 『リベラックの教訓』は、一九四一年六月、アルジェで発行されていた「泉(フォンテーン)」誌に掲載された。アラゴンの旧友で、いまやヴィシー派になっているドリュ・ラ・ロシェルは、右翼団体「反共十字軍」の機関紙「民族解放」紙(一九四一年十月十一日付)でこれを取りあげて、「真紅の騎士」とは赤騎兵およびソヴィエト・ロシヤと解すべきだと書いた。これが書かれた一九四一年における主な事件をあげると、

 六月の始め、アルジェの「泉」誌に、「リベラックの教訓」が発表される。
 六月廿二日、ヒトラーがソヴィエト攻撃を開始する。
 七月廿三日、「マルクス主義の宣伝扇動家」は死刑に処するというヴィシー政権の布告。
 九月五日、ドリオは、ドイツ軍の制服をきて、ロシヤ戦線に出発する。
 九月十六日、パリで、十人の人質が銃殺される。
 九月二十日、パリで、十二人の人質の銃殺。その中に、「共産党員官吏」ピタールとアジがふくまれる。
 九月廿二日、ヴィシー政権の軍法会議で、ウーグ、A・ギヨー、カトラ等が、共産主義活動のかどで、死刑を宣告され、後にギロチンにかけられる。
 十月十一日、ドリオ編集の「民族解放」紙上に、ドリュ・ラ・ロシェルのアラゴンに関する記事が、動員中のアラゴンの写真入りで、一頁全段に掲載される。
 十月廿二日、シャトーブリアンにおける五○人の人質の銃殺。これについて、後に、アラゴンは有名な「殉難者たちの証人」を書く。

 こういう情勢のなかで、ドリュ・ラ・ロシェルはこう書く。
 「……ここに、雑誌「泉」四号に発表された『リベラックの教訓』という一文がある。論旨はまことに文学的で、極めて純粋な郷土愛にあふれているかに見える。それは、偉大な詩の時代であったフランス中世への讃美である。……しかし、そこには一つの「しかし」がつく。いや、たくさんの「しかし」がつく。
 アラゴンの激賞するのは、奇妙な中世である。それは、じっさいの中世に全く反するかに見える一つの中世であり、性急な弁証法によるマルクス主義的方法によって捉えられた一つの中世であって、それはすでに中世そのものを飛び越えているのだ。
 ……この気まぐれの愛国主義にとっては、問題は、目的としてのフランスではなくて、手段としてのフランスである。赤い糸で縫いとじられている詩文学雑誌で、アラゴンが、レジスタンスとその強化のためにふり撤いているあの悲憤梗概、祖国の尊厳に注いでいるあの感涙、あの片言の呼びかけなどは、排他的かつ熱狂的な讃美でフランスをほめたたえているかに見えても、けっしてフランスに奉仕するものではない。ここに、この一文の最後の言葉がある。
 <……ねがわくばフランスの詩人たちが……新しい真紅の騎士の立ち現われる日のために準備されんことを。そのとき、閉ざされた芸術の実験室で準備された彼らの言葉は「言葉の一つ一つに法外の重要さを与えながら」すべての人びとに、詩人たち自身にも、明らかになるだろう。そしてそれは、国境を知らぬ、フランスの真の夜明けとなり、その光は空高く染めて、世界の果てからも見えるだろう> たしかに、国境を知らぬこの夜明けは、モスクワから見えるだろう。そしてこの真紅の騎士は、私にはむしろ赤騎兵に見えるのである。
 アラゴンは、つねにそうだったが、ここでもやはり大偽作者である。この邪悪な偽作者は、あらゆる価値を変質させて、横取りしてしまい、それを、自分の猿まねの贋金に作り変え、ロシヤ狂(きちが)いでロシヤ贔屓(びいき)の贋金に作り変え、頑迷な国際主義の贋金につくり変えてしまう。彼にとっては、「わが祖国よ」というトレモロも、文学的弥次馬どもがよく使ういんちきなトリックに過ぎない」

 ドリュ・ラ・ロシニルの、この批判というよりはデマゴギーを、ほぼ三○年後のこんにち、読みかえしてみるのは興味深い。アラゴンの人民的愛国主義とも言うべきものは、ここでは、「ロシヤ狂い」とののしられ、「国際主義」と言われている。しかし、だれがじっさいに「鷹金作」であり、「文学的弥次馬」であったかは、いまや歴史が証明している。アラゴンは「涙よりも美しき美女(もの)」を書いて、ドリュ・ラ・ロシェルに答える。
(つづく)

(『アラゴンとエルザ 抵抗と愛の讃歌』)

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