『エルザの眼』(3)エルザの眼

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    エルザの眼

  おまえの眼の深いこと 身をかがめて飲もうとして
  おれは見た すべての太陽がきらめき映り
  絶望したものたちがみな そこに身投げするのを
  おまえの眼の深いこと おれは気も遠くなる

  飛ぶ鳥たちの影で 暗くかげる青い海
  ふと 晴れ間がのぞけば おまえの眼の色も変わる
  夏は雲をちぎって 天使たちの仕事着に仕立てる
  麦畑のうえの空ほどに 青いものはない

  青空にかかる悲しみの影は 風も吹き払えぬ
  涙のひかるとき おまえの眼は空よりもきらめき
  雨あがりの澄んだ空さえ おまえの眼をねたむ
  砕けたグラスの かけらほどに青いものはない
  涙のなかに射す陽の光はさらに胸かきむしるばかり

  おお 「七つの苦悩」をになう母の 濡れた眼(ま)なざしよ
  七つの剣(つるぎ)が 七つの色のプリズムを射しつらぬいた
  涙のなかに射す陽の光は さらに胸かきむしるばかり
  悲しみに射(い)ぬかれた瞳(ひとみ)は 喪にふしていやましに青い

  おまえの眼は 不幸のなかに二つの突破口をひらく
  そこから「三人の博士」たちの奇跡が起こるのだ
  あのとき かれら三人は心躍らせて 見たのだ
  まぐさ桶にひっかかった マリアのマントを

  「五月」の月を 言葉で歌い 嘆くには
  ひとりの詩人の口で こと足りた
  だが千万の星たちには 一つの空では足りぬのだ
  かれらには おまえの眼や同じ秘密が必要だった

  うつくしい絵本に見とれた子供が ぱっちりと
  見ひらいた大きな眼も おまえの眼には及ばぬ
  ひとを煙にまくように おまえが大きな眼をひらくときは
  まるで にわか雨に濡れて咲いた野の花のようだ

  昆虫たちが激しい恋をとげる あのラヴァンドの
  花の中には ひらめく稲妻も隠してあるのか
  おれは 流れ星の網につかまったのだ
  八月のさなかに 海で死んだ水夫のように

  おれは このラジウムをウランから取り出した
  この禁断の火で おれは手の指を焼いたのだ
  何度となく 見失ってはまた見つけだした楽園よ
  おまえの眼はおれのペルー ゴルコンド おれのインドだ

  とある夕べ 世界は暗礁にのりあげて砕けた
  難破者たちは 暗礁に火を放って燃え上らせた
  だがおれは見た 海のうえに かがやく
  エルザの眼を エルザの眼を エルザの眼を

 「わたしは、眼にたいして特別の愛着をもっている」と、アラゴンはどこかで書いているが、この詩では、エルザの眼をとおて、世界が歌われている。それはエルザの眼ではあるが、「砕けた世界」──祖国の地獄のような現実を映しとっている鏡であり、抗抵運動にみずからも身を投げいれているエルザの眼である。こうしてここでは、すべての言葉が寓意的であり、象徴的である。太陽、星、天使などの言葉は、愛国者、指導者、活動家などをも意味している。
(つづく)

(『アラゴンとエルザ 抵抗と愛の讃歌』)

雲


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