『断腸詩集』──四〇年のリチャード二世

ここでは、「『断腸詩集』──四〇年のリチャード二世」 に関する記事を紹介しています。
   四〇年のリチャード二世

  わしの祖国は 舟曳きどもに
  見捨てられた 小舟さながら
  してわしは 世にも不幸な
  あの国王に そっくりじゃ
  あれも苦しみ だらけの王じゃった
  生きるとは もはや戦略にすぎぬわい
  流れる涙を 風もかわかしてはくれぬ
  愛するものすべてを 憎まねばならぬ
  はや手にないものまで奴らに与えねばならぬ
  わしは 苦しみだらけの王なのじゃ

  心臓は 脈うつのをやめるもよかろう
  血は 温(ぬく)みなしで流れるもよかろう
  盗っ人どもの どろぼうゲームじゃ
  二たす二は 四にはならぬ
  わしは 苦しみだらけの王なのじゃ

  太陽は 死んでもまたよみがえってくれ
  空まで 色を失ってしもうたわい
  若かった頃の やさしいパリ
  おさらばじゃ 「花河岸(ク・オ・フルール)」の春よ
  わしは 苦しみだらけの王なのじゃ

  森や 泉は 姿をかくすがいい
  わめき散らす鳥どもは 黙るがいい
  おまえらの歌は 聞きたくもないわい
  いまや 鳥追いのご治世じゃ
  わしは 苦しみだらけの王なのじゃ

  ジャンヌがヴォクルールに着いた時の
  いまは あの苦しみの時代なのじゃ
  ああ フランスを八つ裂きにするもいい
  陽の光まで いろ青ざめたわい
  わしは苦しみだらけの王なのじゃ

(1)ヴォクルール──ムーズ河畔の町。ヴォクルールの隊長ロベール・ド・ボードリクールに、ジャンヌ・ダルクは始めてシャルル七世救援の計画を打ち明けた。愛国者が立ち上る前、というほどの意味で使われているのであろう。

 この詩は、カルカソンヌで書かれた。当時、「自由地帯」の家家の壁には「予は、虚偽の流言飛語を憎む。それはわれわれに多くの害毒を与えている──フィリップ・ペタン」というビラが貼りめぐらされていた。

  わめき散らす鳥どもは 黙るがいい
  おまえらの歌は 聞きたくもないわい
  いまや 鳥追いの ご治世じゃ

 という詩句は、ヴィシー政権の売国の指導者たちに投げつけられた毒舌である。この詩は、『断腸詩集』に収められて、一九四一年四月初め、被占領地帯と自由地帯の本屋で売られた。「グランゴワール」紙、その他の御用新聞が、「共産主義者の陰謀は粉砕された」とヴィシー政権をほめたたえていた時、ひとびとは争ってこの詩集を買いもとめていたのである。

(この項おわり)

(『アラゴンとエルザ 抵抗と愛の讃歌』)

ボビージェームス

関連記事
コメント
この記事へのコメント
コメントを投稿する
URL:
Comment:
Pass:
秘密: 管理者にだけ表示を許可する
 
トラックバック
この記事のトラックバックURL
http://oshimahakkou.blog44.fc2.com/tb.php/3154-f499f8aa
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
この記事へのトラックバック