『断腸詩集』──リラと薔薇(上)

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                     ☆今日の記念日「ルイ・アラゴン氏死去
 
   リラと薔薇

  おお 花の咲く月 虫の姿をかえる月
  雲のなかった五月と 匕首を突き刺された六月と
  おれはけっして忘れまい リラと薔薇とを
  春が その襞(ひだ)のなかで まもった人たちを

  おれは忘れまい 恐ろしい悲劇の幻(まぼろし)を
  長い行列や叫び声や むらがる群衆や太陽を
  愛を積み込んだ戦車や ベルギーの贈り物を
  わなわな顫える大気や 蜜蜂の唸るような街道を
  論議にうち勝った 得(とく)とくとした入城を
  くちづけの紅(べに)が 赤く描いた血の色を
  熱狂した民衆が リラで飾った砲塔(2)に
  つっ立ったまま 死ににゆく ひとたちを

  おれは忘れまい 消えうせた数世紀の
  ミサの祈祷書にも似た フランスの庭を
  夜な夜なの騒ぎと なぞを秘めた沈黙を
  長く伸びた道ぞいに 咲きでた薔薇を
  恐怖をまき散らして 通り過ぎる兵士どもに

  狂った自転車部隊に 皮肉な大砲に
  野宿者(キャンパー)まがいの 身なりも哀れな兵隊どもに
  そして恐怖の嵐に 雄雄しく立ち向った花花を

  なぜか知らぬが これらの光景の渦巻きは
  わたしをいつも同じ停留所へと連れてゆくのだ
  サントマルトへ 黒い花模様をつけた将軍へ
  森のほとりの ノルマンディ風な別荘へと
  みんなが黙りこんで 敵は闇の中でひと休み
  こん夜きけば パリはついに陥ちたという
  おれはけっして忘れまい リラと薔薇とを
  そうしてわれらがうしなった 二つの愛を

  最初の日の花束はリラ フランドルのリラよ
  死者の頬を色どる そのやさしい影よ
  そしてきみたち隠れ家の花束 やさしい薔薇たち
  はるか遠い戦火の色をした アウジウの薔薇たち

(1)「六月」──四○年六月、ダンケルクの敗北につづいて、六月十四日にはパリが陥落し、十八日には独仏休戦条約が調印される。
(2)「砲塔」──戦車の砲塔を指す

(つづく)

(『アラゴンとエルザ 抵抗と愛の讃歌』)

朱色


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