心のなかのスペイン──「そのわけを話そう」(下) 禿鷹の飛ぶ地獄のなかから

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 『心のなかのスペイン』において、ネルーダは政治詩の修業をする。政治詩は、スローガンや空疎なきまり文句の反対で、極限の暗喩や風刺を必要とする。それは人民のために、人民によって、人民とともに書かれる詩である。
 一九三八年、バルセロナ戦線の人民戦線兵士たちは自分たちで紙をつくり、活字を組んで、詩集『心のなかのスペイン』を刊行した。それは、この詩集がいかに兵士たちに愛誦されていたかを物語っている。

 詩集『心のなかのスペイン』は、ピカソの「ゲルニカ」、エリュアールの「一九六六年十一月」「ゲルニカの勝利」などと並んで、抵抗芸術の模範として位置づけられよう。じっさい、スペイン戦争につづいて勃発する第二次大戦のなかから湧きあがる、フランス・レジスタンスの詩にたいして、『心のなかのスペイン』は先駆的な模範として深い影響をあたえることになる。この詩集はただちにルイ・パロとアラゴンの共訳によって仏訳され、その序文にアラゴンは書く。
 「……このすばらしい言葉にもっとも気高い運命をあたえるのは、生の役割だった。そして霊感の創造的な炎が、これらアメリカの紅玉(ルビー)を磨きあげ、つくりあげたのは、赤あかと燃えあがった戦火のためにほかならなかった。戦火のなかで、詩の宝石は血の滴(したた)りに変わった。生はパプロ・ネルーダと詩をみちびいて、詩そのものが永遠に失われ、詩人そのものが死んでゆくような光景の前に置いた。そのとき奇蹟がおこった。
 その奇蹟とはこうだ──パプロ・ネルーダは、あのいつもと変わらぬ同じ声で、あの同じ静かな言葉で、戦火のうえ高く、市民戦争のさなかから、あのすばらしい、もろくさえ見える、彼独特の声を鳴りひびかせたのだ。ひとびとは結局、かれのその言葉を、肉と血をもつ人間の言葉そのものとして認めて、驚嘆したのである」
 ネルーダは、「禿鷹が飛ぶとき鴬は沈黙する」(アラゴン)という伝説をうち破って、禿鷹のとぶ地獄のなかから声をあげたのである。
(つづく)

(新日本新書『パブロ・ネルーダ』)

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