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座る場所の詩章(抄)

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 座る場所の詩章(抄)
                          ルイ・アラゴン

わたしは砂漠の端(はし)に座っている
死とくちずけを歌いながら
そのとき 赤く染まった空は
おとぎ話の色をした未来の
紛(まが)うことない姿をわたしに示す

わたしは風のふちに坐っている
翼の音しか聞こえて来ない
「彼女」のざわめきは途絶え
「彼女」の嵐も消えかかっている
嵐のあとや前の雲の流れを変えて

わたしは海ばたに座っている
難破した者たちがぶつくさと
よその国ぐにについて語っている
あちらでもここでのように生きるのは辛(つら)い
だがかれらもおいらのように愛し合っていた

わたしは時間のはじに座っている
時は搏つ ますます早く搏つ
時は望むのか きみがわたしから去るのを
時をまねてゆくこの狂った心から
わたしはそれでも時を停められない

わたしは夢のふちに座っている
ひたすらきみを夢みる夢のふち
夢のなかのきみは屋根の上の星
夢のなかのきみはひと休みした苦しみ
夢のなかのきみはついに明け放つあけぼの

わたしは叫びのへりに座っている
度重ねた戦争と悲劇のふちに
わたしは賭けてわたしの魂を失った
いまやわたしの髪は灰色になった
わたしの愛したものは奪いとられた

彼らは言う 人めいめいに運命がある
いくら泣いても嘆いてもむだだと
彼らはわたしを聞くのか 何を聞くのか
すすり泣きも聞こえないあのひとたち
涙もかれらにはただの水に過ぎない

売り買いしか知らないその人たちに
きみのこの叫びがどうして見えよう
この叫びはあらゆる責苦から成り
あらゆる火とあらゆる灰から成る
どうしてかれらに聞くことができよう

殉難の世紀よ 傷(いた)めつけられた世紀よ
その口は血にまみれ血ぬられている
わたしは呻き声の中に座っている
苦しむだけでは足りないと言うのか
道行く人よ 行き給え 過去よ 過ぎ去れ

季節は季節はずれにやってくる
そこにはきみという地平線しかないだろう
おお 理性を失ったわたしの理性よ
こうして深夜が晝の日中に支配する
もうひとつの真晝は愛にぞくする

ある者の幸福がもはや他(ほか)のひとの
不幸によってあがなわれないなら
そのとき われらの歌だったこの歌は
きみの望んだ意味をもちながら
ほかの人たちの眼によって読まれよう

そのとき新しく開かれた 青空よりも
もっと青い道のうえに座って
そこでは何ものももう同じ尺度をもたない
きみの手のなかの人類の太陽は
素朴単純に言う これが明日だと

<訳詩集「エルザの狂人」草稿>
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