人民の詩人ネルーダ──没後10年に際して

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人民の詩人ネルーダ──没後10年に際して
                              大島博光

 常にチリ人民に想いを馳せ
 一九七三年九月十一日、ファシスト・ピノチェットがチリ人民を血の海に投げこんで、人民連合政府を圧殺してからもう十年になる。しかし、ふたたび立ち上がったチリ人民は早くもピノチェットのアメリカ製の台座を激しく揺さぶっている。
 パブロ・ネルーダは、ピノチェットの権力奪取からまもない、九月二十四日に死んだ。彼もまた、アジェンデのように、ヴィクトル・ハラのように、死んだと言っていい。ネルーダは最後まで詩を武器にして、ファシストに痛撃を加えた。彼はファシストの暴虐暴行を眼の前にして、怒りと苦悩によって悶絶した。ネルーダは、おのれのことしか語らない詩人としてではなく、つねにチリ人民に想いを馳せ、チリ人民とともにたたかった詩人として死んだ。ネルーダの生がチリ人民に結びついていたように、彼の死もまたチリ人民に結びついていたのである。
 過日ひらかれたチリ人民支援集会で、チリ人民運帯日本委員会の作成した映画「ベンセレモス」をわたしは見た。そのなかにネルーダの葬式の場面が映し出された。ファシストどもの銃剣の前で、集まった参列者の群のなかから、期せずして「インターナショナル」の歌ごえが湧き起こるシーンである。それはわたしにとってたいへん感動的だった。わたしはその歌の由来を思い出した。およそ百年前、パリ・コミューヌを血の海に沈めたベルサイユ反動軍が、さらにパリの街の一軒一軒をしらみつぶしにして、コミューヌ戦士を追求し狩りたてていた時、詩人ウージェヌ・ポチエは隠れ家にかくれて「インターナショナル」を書き、コミューヌの再起を呼びかけたのだった。その歌が、ここネルーダの葬式の場面にうたわれたのは、やはり感動的だった。そして「インターナショナル」がこれほど感動的に歌われた場面もめずらしいであろう。

 労働者への友愛のやさしさ
 わたしはさいきん、「大いなる歌」のなかの「遺言」という詩を読みなおしてみた。

 わたしは残していこう
 銅山と 炭坑と 硝石工場の労働組合に
 イズラ・ネグラの海べにあるわたしの家を
 しいたげられた息子たちが
 そこで その身をやすめてくれるように
 傷ついた ひとたちが
 わたしの寝床で 眠ってくれるように
 ……
 わたしは 残していこう
 アメリカの 新しい人たちに
 わたしが世界の隅ずみで集めて 愛読した
 印刷もりっぱな古い本を
 新しい詩人たちは いつか
 過去のとぎれた しわがれた詩法の上に
 明日の意義をつむぎあわせてくれるだろう
 そうして新しい詩人たちが
 マヤコフスキーのなかに
 のぼってゆく星を見いだしてくれるように
  (角川書店版『ネルーダ詩集』)

 おのれのことしか語らない詩人だったら、どうしてこんなやさしい友愛のことばを銅山労働者におくり、新しい詩人たちに「のぼってゆく星」をうたうように呼びかけることができよう。

 消しさることのできない火
 ところで、このイズラ・ネグラの家は、ファシストの兵隊どもの土足に踏み荒され、ゴンゴーラやケヴェードなどのスペイン古典を始めとする多くの蔵書は持ちさられ、あるいは焼き払われたのである。しかし、ネルーダの鳴りひびく歌と愛を焼き払うことはできない。ネルーダがチリ人民におくった励ましと火は、だれもこれを消しさることはできない。
 ネルーダが死んだ時、スペインの大詩人、ラファエル・アルベルティは、「心のなかのチリ」を書いて、ネルーダに贈った。この題名には、スペイン戦争の時ネルーダが書いた詩集「心のなかのスペイン」にたいする返礼がこめられているように思われる。

 おまえらは眠れぬだろう 剣をもった悪党ども
 血まみれの爪をした夜の鴉ども
 おまえらは眠れぬだろう なぜなら
 ネルーダの気高い歌 愛情にみちた情熱
 山の峯をも越える あの高邁(こうまい)さは
 いつか チリ人民とひとつになって
 おまえらの息の根を止めるだろう
 おまえらは眠れぬだろう なせなら
 だれひとりとして 眠らないから
 おまえらは眠れぬだろう なぜなら
 ただ死だけが おまえらの勝利だから

 このアルベルティの予見、予言は、十年後のこんにち早くもあかしだてられつつある。そしてネルーダは守護神のようにチリ人民のなかに生きつづけるであろう。   (詩人)

(『赤旗』1983.10.17)

*「心のなかのチリ

ネルーダ


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