ロルカの死を歌った詩人たち──没後四十周年に──(3)エルナンデス

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   エルナンデスの悲歌

 ミゲル・エルナンデスは、羊飼いから詩人になったひとで、ネルーダはかれについて「オレンジのしみのついた鶯を口のなかにいれてやってきた」とうたっている。このエルナンデスもつぎの詩をロルカにささげている。

 フェデリコ・ガルシーア・ロルカへの悲歌
                            ミゲル・エルナンデス

 錆びた槍をたずさえ 大砲を身によろって
 死神が カスティリャの草原をよこぎる
 人間は 草原で 根と希望をたがやし
 塩をふりかけ、死者たちの頭蓋骨(ほね)を蒔く

 おお ひろい地面のうえの緑よ おまえが
 喜びに溢れたのは どれほどの時だったのか
 いまは太陽も ただ血を腐らせて黒く乾かし
 いっそう暗い闇を 湧き上がらせるばかり

 苦しみ悲しみが 黒いマントを着て
 またしても おれたちの間に割り込んでくる。
 おれはまたしても 涙の路地に
 降る雨のように はいり込む

 おれが 二六時中 はいり込んでいるのは
 このにがい苦しみを塗りこめた闇の中
 源にぬれた眼と嘆きにみちみちた闇の中
 入口には 断末魔の苦しみの蠟燭が燃え
 人びとの心撃をつらねた 怒りに燃える首飾り

 もしもできるものなら 人気ない水の彼方で
 井戸の底で おれは 思い切り 泣きたい
 そこでなら だれにも 見られはしない
 おれの泣き声も 濡れた顔も 涙の跡も

 おれはゆっくりと入る 額が重くのしかかる
 まるでゆっくりと心臓がひき裂かれるようだ
 ゆっくりゆっくりと そしてまたしてもおれは
 詩人のギターの前で 声をあげて泣くのだ

 おれが悲しむ すべての死者たちのなかで
 だれにもまして忘れられぬこだまがある
 それはおれの心にいちばん深く鳴りひびいたからだ
 おれはつらい悲しみで その男の手を執るのだ

 きのうまではフェデリコ・ガルシーアが
 かれの名前だった きょうは 土くれがかれの名前だ
 きのう かれは 白日のもとに席を占めていたが
 きょうは 草葉のかげの穴がかれを迎える

 これがかれのすべて かれはもうこの世にいない
 きみの 柱やピンを揺すっての騒々しい喜びよう
 きみはその喜びを歯から抜きとってふりかざした
 いまや哀れなきみは 棺桶の楽園しか望めない
 骸骨(ほね)を身にまとい 鉛のように眠りこみ
 心動かさぬ冷静さと敬愛でかたく武装して
 おれはきみの眼のなかにまではいり込もう
 もしもきみが おれに見えるものなら

 きみの 鳩の生命を 風が吹きとばした
 まるで 一陣の羽根の突風(はやて)のように
 きもの鳩は その白さとその啼き声で
 空と窓べを 花輪のように飾っていたのに

 林橋の従兄弟(いとこ)よ 黴(かび)もきみの樹液にはうち勝てぬ
 蛆虫の舌も きみの死には うち勝てない
 林檎の実に 野性のたくましさを与えようと
 林檎作りは きみの骨の髄を選ぶだろう

 鳩の息子よ 鶯とオリーブの孫よ
 きみは 地球がまわっているかぎり
 いつまでも 蕎麦菊の夫であり
 すいかずらの父親であるだろう

 死神は なんと単純素朴であることか
 だが 彼女はまた 不法にも乱暴なのだ
 彼女は やさしく振舞うことができない
 思わぬ時に その不吉な大鎌をふるうのだ

 いちばん堅固な建物だったきみが ぶち壊された
 いちばん高く飛んでいた鷹が 撃ち落された
 いちばん大きく鳴りひびいた声が 黙りこんだ
 あとには 沈黙 永遠の沈黙 沈黙

 ひとりの詩人が死んで 詩神は脇腹に
 致命傷(ふかで)を負ったのを感じ その身ぶるいは
 宇宙的な振動となって 山やまを走り
 死の光は 川という川の子宮を走る

 村村のすすり泣き 谷間じゅうの嘆きが聞こえる
 涙の乾くことのない たくさんの眼が見える
 涙の雨 喪の黒いマントが見える
 喪につづく喪 のべつまくなしの喪だ
 涙につづく涙 のべつまくなしの涙だ

 きみの骨は風のなかにばら撤かれはしない
 やさしくて苦(にが)い詩人よ 蜜の火山 閃く稲妻よ
 長い二列の匕首(あいくち)のあいだの 熱いくちづけで
 きみは味わったのだ 長い愛 長い死 長い熱さを

 きみの死の伴奏をしようと ぞくぞくと
 空と大地の隅ずみから やってくるのは
 空駆ける協和音 顫える弦の青い稲妻
 打ち鳴らされる カスターネットの一群
 ジプシーの長太鼓 フリュートの一隊
 一斉に鳴りひびく鐘 バイオリンの一団
 ギターとピアノの嵐 トロンペットと喇叭の洪水

 だが沈獣は これらすべての楽器よりも大きく深い

 荒涼とした 死のなかの
 沈黙 孤独 ちりあくた
 きみの舌 きみの息吹きは ぴしゃりと
 みずからの上に扉を閉ざしてしまったようだ
 かつてきみの影といっしょにさまよったように
 いまおれは 自分の影とともにさまようのだ
 沈黙が重く覆いかぶさっている大地のうえ
 糸杉がいっそう暗くしている大地のうえ

 きみの断末魔の苦しみは
 鉄の責め具のように おれの咽喉(のど)を締めつける
 まるで 死に酒を舐める想いだ
 フェデリコ・ガルシーア・ロルカよ
 きみは知っているのだ おれが毎日
 死と額をつきあわせている連中のひとりだということを

 ここには、ロルカの死とエルナンデスの慟哭とが、詩のことばで、密度濃くうたわれていると同時に、ロルカの偉大さもみごとに表現されているといえよう。また、死をきびしく克明に歌った詩人ケベードの伝統を、そこに読みとることもできよう。だが何よりもここには、フランコ・ファシスト軍にたいして、一兵士として、──『毎日死と額をつきあわせている連中のひとり』として戦った詩人エルナンデスの切実さがにじみ出ているのである。
(つづく)

(『民主文学』1976年11月号)

アリカンテへ
アリカンテへ (安西良子さん撮影)

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