レニングラード封鎖の中で鳴り響いた交響曲 ─ひのまどか「戦火のシンフォニー」(7)

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 戦火の町に《第七番》が響いた!弦楽器の力強い合奏が、第一楽章の開始を告げた。明るく健康的な旋律は、全国民が営んでいた平和な生活と労働の歓びを活き活きと描いていた。やがて音楽は、弦と木管が奏でる牧歌的な調べに変わった。
 トロンボーン奏者、スモリャクの証言。
「交響曲が鳴り響いて五分が過ぎた頃、急に砲撃音が聞こえてきた。私は隣に座る同僚と頷き合った。我々軍人音楽家は、極秘のシュクワール作戦のことを知っていたからだ。私は「我が軍の砲兵隊が作戦を開始した」と分り、どうにかしてオーケストラのfで砲兵隊に応えたい、と願った」
 一斉砲撃の余波でフィラルモニーの建物はかすかに振動し、八基のシャンデリアが天井で揺れた。遠雷のような轟音がフィラルモニーの中にまで届いたが、市民はこういう音には慣れっこになっていたので、微動だにせず音楽に聴き入っていた。

 小太鼓が、遠方から近付いて来るかすかな軍靴の行進音を刻み始めた。小太鼓を叩いていたのは、アパートの部屋で死にかけていたところをエリアスベルクに発見された元キーロフ劇場の打楽器奏者、アイダロフだった。
 小太鼓に乗った「侵攻のテーマ」は繰り返されるたびに音量を増し、全オーケストラに波及しながら、遂に狂暴な悪魔となって全貌を現した。音楽は破壊と殺戮のシーンに変わり、金管群が大音響で咆哮し、金管の二群が「抵抗のテーマ」で決然と立ち向かった。聴き手は血塗られた悲惨な砲爆撃の町と、兵士たちが倒れていった戦場の情景を眼前に甦らせ、恐怖と怒りに身震いした。
 やがて音楽は、葬送の足取りに乗ってファゴットのソロが奏でる、深い悲しみに満ちたレクイエムに変わった。最後に今一度、平和な生活を回想するかのように冒頭の明るいメロディーが現れたが、遠くでは戦争が続いていることを表す「侵攻のテーマ」がかすかに響いていた。

 第二楽章は、激烈な第一楽章とは対照的に、優美で軽やかな音楽で始まった。弦楽器が室内楽のように親密なアンサンブルを響かせるのに続いて、オーボエのソロが哀秋に満ちた美しいメロディーを伸び伸びと奏でた。平和な生活の思い出が漂うような優しさに満ちた音楽の中に、突如不安な戦闘のシーンが紛れ込んで来たが、金管と打楽器と弦の楽観的で力強い合奏がこれを退けた。音楽は再び美しい憂愁に彩られた静かな調べに変わり、バスクラリネットとハープのソロで消えるように閉じて行った。ショスタコーヴィチが述べた《穏やかな悲しみと憂愁が、霧のように包み込んでいる》楽章だった。

 第三楽章は木管とホルンとハープによる荘重なファンファーレと、弦楽器の語りかけるような力強い楽句で、堂々と開始された。続いて現れたフルートのソロの長い詩的なテーマはヴァイオリンに受け継がれ、やがて全オーケストラは情熱的で雄大なクライマックスを築いて行った。
 ショスタコーヴィチはこの楽章で《生きる歓びと自然崇拝》を劇的に描いたと述べたが、その言葉通りに悲観的な要素の全くない、生命力に満ちた音楽が続いた。
 再び弦のユニゾンが力強く奏でられた後、バスクラリネットの低いモノローグに重ねてタムタム(銅鑼)が弱音で三回鳴り、それを境に音楽は切れ目なく第四楽章へ入った。

 第一楽章では破壊と殺戮と怒りを描いたショスタコーヴィチは、第四楽章では全国民の悲願である「輝かしい勝利」を描いた。
 死屍累々の戦場を思わせる弦とティンパニの暗い導入部に続いて、チェロとコントラバスが決然とした楽句を奏し、音楽は瞬く間に進軍と決戦のシーンに突入した。勇敢な兵士たちの死をも恐れぬ戦闘を眼前に見るような激烈な音楽が、猛り狂う管や弦によって華々しく盛大に展開された後、曲想は次第に戦場で倒れた英雄たちに捧げる厳粛で気高い調べに移って行った。重厚で悲痛な弦の調べが、英雄たちの死を悼んだ。
 最後に、情熱的でドラマティックな勝利の瞬間が訪れた。二群も加わった金管群の咆哮と、打楽器群の強打と、全オーケストラの笛は「全世界に轟け!」とばかりに鳴り渡り、そのとてつもない大音響はホールのみならず、フィラルモニーの建物全体を揺るがした。
 若いトロンボーン奏者、カルペツの証言。
「それは、言葉では言い表せない強烈な体験だった。この偉大な瞬間、私の心は人々と祖国への、無限の愛に燃え上がった!」
(つづく)

戦火のシンフォニー

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