レニングラード封鎖の中で鳴り響いた交響曲 ─ひのまどか「戦火のシンフォニー」(6)

ここでは、「レニングラード封鎖の中で鳴り響いた交響曲 ─ひのまどか「戦火のシンフォニー」(6)」 に関する記事を紹介しています。
 交響曲第7番レニングラード初演の日、1943年8月9日は、朝から太陽が出ていたが気温は低く、夏とは思えない肌寒い日だった。町はお祭り気分に満ちていた。市民は、運良くチケットを手に入れた人も、チケットを持たない人も、早くからフィラルモニーの前の芸術広場や近くのミハイロフスキー公園に集まって歓談していた。大ホールの最大収容人員は1,500人だが、この日は招待客が大勢来るため一般向けのチケットは半分くらいしか売り出されず、前日の内にクジ引きで幸運な当選者が決まっていた。
 開演一時間前の午後6時、黒光りする機関銃が置かれたフィラルモニーの玄関が開き、待っていた群衆がどっと流れ込んだ。誰もが興奮して我先に入ろうとしたが、大理石の円柱が立ち並ぶ大ホールに足を踏み入れると、その荘厳な雰囲気に圧倒されて礼儀正しくなった。一般客が席に着いた後、党とソビエトの指導部、軍の高官たち多数が入って来て、前方の席に着いた。市民の招待客も大勢来た。多くの音楽家・作家・美術家・学者たちが居た。開演時間が近付いたころ、急に会場がざわめき、出席していた大勢の軍人がザッと音を立てて起立した。人々の視線は一斉に入り口に注がれ、どよめきが広がった。「ゴーヴォロフ将軍だー夫人と一緒だ!」ゴーヴォロフ中将はバラ色のドレスに身を包んだ愛らしい夫人に腕を貸し、陸海軍の指導部を後ろに従えて中央通路をゆっくりと進み、最前列に座った。それを合図に、マイクが何本も立つステージにオーケストラが登場してきた。

 楽団員が全員着席すると、会場のスピーカーからアナウンサーの声が流れた。「同志の皆さん。今日我々の町の文化生活に大きな出来事があります。数分後に皆さんは、レニングラードで初めて演奏されるドミトリー・ドミトリエヴィチの交響曲第7番を聴きます。我々の傑出した同郷人である彼は、この非凡な作品をここ我々の町で書きました。大祖国戦争の日々、卑劣な敵がレニングラードを砲撃している時、我々の町を集中爆撃している時、ナチスが全ヨーロッパにレニングラード陥落は間近だと言い立てている時に。交響曲第7番は包囲下のレニングラード市民の証言です。不屈の精神、勝利への信念、敵との流血の戦いと、勝利を勝ち取る決意。それらを語る交響曲を、レニングラード自身が演奏します。同志の皆さん、聴いて下さい」
 アールキンが立ってオーボエに合図し、しばしチューニング音が会場を満たした。それが終わり、静まり返ったステージに、燕尾服と純白のシャツで正装したエリアスベルクが登場した。大拍手が鳴り響き、エリアスベルクはそれに応えて一礼した後、向きを変えて指揮台に上った。静寂の中でオーケストラ全員の真剣なまなざしを受け止めた彼は、サッと指揮棒を振り上げた。
(つづく)

エリア図ブルグ

関連記事
コメント
この記事へのコメント
コメントを投稿する
URL:
Comment:
Pass:
秘密: 管理者にだけ表示を許可する
 
トラックバック
この記事のトラックバックURL
http://oshimahakkou.blog44.fc2.com/tb.php/3009-19493ab4
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
この記事へのトラックバック