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レニングラード封鎖の中で鳴り響いた交響曲 ─ひのまどか「戦火のシンフォニー」(5)

ここでは、「レニングラード封鎖の中で鳴り響いた交響曲 ─ひのまどか「戦火のシンフォニー」(5)」 に関する記事を紹介しています。
 交響曲第7番のオーケストラ編成は三管編成を基本にクラリンネットが4本、金管に至っては通常の倍、ホルン4+4、トランペット3+3、トロンボーン3+3,打楽器群とハープ2、ピアノ1、弦5部という巨大編成だった。金管は完全に不足している。現在のメンバー45名に対して80名は必要だ。「前線に配属されている音楽家を戻そう、軍楽隊も洗い直そう」エリアスベルクは党書記クズネツォフに会って要請した。「開戦時に軍に徴用された音楽家たちを前線から戻して下さい。交響曲第7番の初演のためにはどうしても彼らが必要です」事の重大性を理解したクズネツォフは前線司令部に指示を出す約束をした。前線の軍人音楽家の情報を集めるための努力が始まった。かくして、スモーリヌィ軍司令部の命令により、ラジオ委員会には軍楽隊を含む現役の軍人たちが次々に派遣されてきた。レニングラードの音楽家だけでなく、各共和国出身の軍人音楽家も集められた。
 パート譜の作成も難題だった。巨大編成のため、必要なパート譜は70冊を下らない。戦時下、楽譜出版はないので、音楽家たちは手分けして手書きでかいた。2週間で完成させた。

 ヒトラーは「レニングラードを9月初旬までに占領せよ」と命じ、支援のための軍をレニングラード前線に振り向けた。7月19日、ドイツ軍は文書でスモーリヌィ総司令部に「レニングラードを占領するための攻撃を開始する」と通達してきた。
 レニングラード方面軍司令官に任命されたゴーヴォロフ中将は、砲兵中隊を率いて数々の戦場で勇名を馳せた英雄で、迎撃砲火の専門家だった。着任した日から前線を視察してまわり、砲台を防衛から攻勢に転じさせようとの結論を出し、砲弾・軍用機の増量と砲兵部隊の配置転換を行った。
 8月9日に迫った交響曲第7番のレニングラード初演についてもジダーノフと話し合った。「政治的に重要なこの初演にたいし、ドイツ軍は確実に砲撃を仕掛けてくる」とジダーノフは恐れた。「コンサートはソビエト全土にラジオ中継され、ヨーロッパや北米にも短波で送られる。砲撃のために途中で止まることだけは避けたい。たくさん出席する党指導部の人間の命もまもらなくてはならない」ゴーヴォロフは頼もしく請け負った。「ご安心下さい。8月9日の夜には敵が町を撃てないように、前線に豪雨のごとく砲弾を浴びせてやります。弾幕砲火で敵が一門も砲火を開けないように先制攻撃をかけます」

 ラジオの家には80名の音楽家が集結した。個々の楽団員に演奏レベルの差があるので、パート練習から始められ、個人レッスンも重ねられた。本番2週間前の7月25日からは他のコンサート活動は中止して集中リハーサルに切り替えられた。
(つづく)

ショスタコ

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