はじらい   赤松俊子『原爆の図』に

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 はじらい 赤松俊子『原爆の図』に
                            斎藤林太郎

ヒロシマの原爆で死んだおとめが
全裸のまま顔に手をあてている姿
焦げただれたミイラの肉、
ねじれた骨、
顔だけに童顔のふくらみが残っている。

高熱にうちのめされた一瞬。
誰にも見せなかったはじらいの部分をかくそうと
死の間際まで思ったにちがいない。
幾度か身もだえしたにちがいない。

しかしもうそこを覆う一物もなく、
手のとどく、かすかに眼の見えるどこにも、
草の葉一枚、着物の一片すら残っていない。
急速にいのちを襲った死。

へし曲った手は何を覆う役に立つというか、
かろうじて膝をちぢめ地を割るように突き立てる。
何もかも奪われたにくしみののたうち。
生けるものの最後の抵抗に細くなってくねった胴。

硬ばりゆく体に死を意識した切那、
もはや口をむすんだまま顔をかくすより外にない。
殺される青春を一片のはなびら程も残そうと、
原始からのおとめのはじらいのしぐさで、
いのるように顔に近づけた双つの手

彼女たちは異国兵も売春の女も見ていない。
うちひしがれた基地の人々も、死の灰も見ていない。
しかし彼女たちの無拓の死の姿はみんなの眼底にしんじゅのように残っている。
彼女たちの死こそ世界死の終幕であらしめよ。

(『角笛』12号 1955年1月)

枯柳

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