アラゴン「マグニトゴルスク」

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マグニトゴルスク
                   ルイ・アラゴン 大島博光訳

小馬には なにもわからない 
あの 大きな鉱石入れの容器が
あの 立ち並んだ鉄の木木が 運搬車が
あのわきおこる歌ごえが
いったい なになのか
宙吊りの花ばな
といったところから
歌ごえが出てくる
ぶらぶら歩きまわるのは無用だ
電信柱に鳴る意地わるな風にむかって
道に沿って
金属の言葉が
飛びかう
小馬にはそれがなにもわからない

小馬には なにもわからない
そこにひらける風景は
工場という釘で 釘づけされた巨人だ
立ち並んだバラック網のなかに
丘をくりひろげている
その風景は 煙りの首飾りをしている
その風景には 夏の日の蝿(はえ)よりも
たくさんの足場が組まれている
その風景は 社会主義のなかでひざまずいている
そうして 電気が
その空中の繊細な指を
立ちのぼる埃(ほこり)と煤煙(ばいえん)のなかに伸ばしている

小馬には なにもわからない
これら 人間たちの家家のなかでは
誰ひとりとして眠らない
まるで犬のあとをついてゆくように
いたるところでヒューヒューと口笛が鳴る
火の豹(ひょう)が 通りかかったトロッコにとびかかる
化学的な副産物の山が並んでいる
砕鉱機に落下する鉱石の雷鳴
高炉の 爆笑のような雷鳴
未知の道化役者が鉄を吐き出すごとに
拍手喝采を送るような
堰(せき)の水の落下する雷鳴

小馬には なにもわからない
白い言葉をもった 赤い
ハンカチがある
道のうえの 空に張られたハンカチ
あるいは 機械に結びつけられたハンカチ
あるいは 建物の口の中のビフテキのような
ハンカチがある
石炭の燃える 深夜までつづく
衛生会議がある
それが山だということを見せてくれ といった風の
混乱したイデオロギーがある

小馬には それがなんにもわからない
大男たちが 大地の肩のあいだを歩きまわっている
そうして 彼らの胼胝(たこ)のできた手の下で
未来の横っ腹が 音をたてる
大男たちは 公共建物を見ながら
毎日 生産される鉄鋼とコークスの
神秘的な生産指数を読む

大男たちのために
空と山とは
夕ぐれ アコーデオンに要約される

おお こいびとよ こいびとよ サーカスへ行こう
ベスビアス火山に見送られて出航した
赤い汽船の船底にかくれて
ムッソリーニの国から逃げだしてきた
イタリア人が空中ぶらんこをするサーカスへ

それからおれたちは 社会主義の町の方へ登って行こう
製鉄はまだその詩人をもたないと思われている時
マキシム・ゴリキー班のメンバーたちは
詩について何を論じるべきか
それをきくバルコニーが まだ町にはない
小馬には なにもわからない

町なかには 陽気な世界がざわめいている
町をゆく女たちは ひとが溺れこむような黒い眼をしている
いならぶ屋台店が まるで可愛がられる女のような風をしている
ばら色のカメラ・マンだけが 声のなかで涙ぐんでいる

獣医診察所のテントのそばには
何足もの靴が 背板にぶらさがっている
それはバシキール人の眼には 自動車よりも信じがたいものだ
そしてきみには 古本屋の店先にある「反デュリング論」よりも信じがたいものだ
小馬には なにもわからない

この詩のはじめに 言ったとおり
テントからテントへと ひとが進むにつれて
とび出してくる空中の声は
ひっきりなしに くりかえしている
それがなければ たしかに
このパノラマには 何かが欠けることになる
そうして その文句は 落っこちてきて
巨大な壁画にからみついた
壁画の一隅では
細部描写のマンモスのような鍛鉄工が
小さな石膏像のレーニンを優しく見つめている
子馬には それらが なにもわからない

小馬よ きみには なにもわからない
きみは きみの最後の時にも
きみのまぐさに与えられた味と鞭(むち)とを
憎まないのか
きみは 村村で こがねにみのった処女地のそばで
ひとびとが飢えているのを見なかったのか
小馬よ きみの道を急がずに 聞いてくれ
ラジオが放送する言葉を 聞いてくれ
それは このウラルの謎をとく鍵なのだ
小馬よ よく聞いてくれ

建設の
時代にあっては
技術が
すべてを
決定
する

小馬よ 小馬よ よーくわかってくれ

(角川書店『アラゴン詩集』──詩集 ウラル万歳)

ニューレンベルク
アムシェイ・ニューレンベルク 政治教育総局ポスター 1921年

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