祖 国
フランソワ・ケレル
大島博光訳
もしもきようわたしが歌うとすれば それは祖国のこと
祖国のくるしみとわたしの心とは おなじ生地から成る
なんと長いことわたしは抱いてきたことか オラドウルの嘆きを
手足をもぎとられたわがフランスよ おまえの姿を
焼きはらわれた祖国の叫びに わたしはこたえる
わたしの青春は愛のことばで おまえに語りかけるのだ
ほんの子供の身で わたしは戦火にくるしめられてきた
ほんの子供の身で わたしはおまえの地獄への道を生きぬいてきた
みなしごとも知らずに わたしは生れ家をはなれ去った
わたしの悲しみは おまえの涙の一部分でしかなかった
わたしは灌木を植えかえ おまえの武器を手にとった
裏切りには血でうち勝たねばならなかったのだ
負傷者のような国よ その傷がとざすとき
わたしは思い出す おまえの梁窓(はりまど)に射すあかつきを
おお 糸杉の林の奥の 武装した忍耐よ
パルチザンは銃を肩に見張りした
防波堤のように おまえをふせぐ希望にもえて
村々の女たちは 彼らにパンをはこんだ
ああ わたしの声は おまえの小枝の一つにすぎなかろう
たとえおのれを語ろうと それはおまえを愛すると告げるため
この二つのことばを言いさえすれば わたしにはもう言うことはない
おお フランスよ ほこらかな たくましいおまえを
脅威のもとにもなお脈うつ おまえの心臓を
もしもこの詩が歌わぬなら それはわたしのねがう詩ではない
もしもきようわたしが歌うとすれば それは祖国のこと
未来とわたしのこころとは おなじ生地から成る
人類のくるしみの 永遠の母語であり
太陽であり 全体である わが祖国よ
フランスはひとつの道なのだ いつもいつも
友愛をになうひとびとへ通ずる道なのだ
(「ラ・ネーヴェル・クリティク」五四・八月号より抄訳)
(角笛 No.12 1955.1)
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