ランボオ「看護婦(みとりおんな)」

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  看 護 婦みとりおんな 
      アルチュール・ランボオ 大島博光訳

若者、その眼は輝やき、肌は栗色、
やがて裸わになろうとするはたちの美しい肉体
額に銅の輪をはめ、月光のもとで、
ペルシャでは、未知の天才が
  うっとり見とれたでもあろう、
童貞の、ほの暗い優しさとともに
はげしく、最初の恍惚をほこらかに、
ダイヤモンドの床のうえをまろびころがる
夏の夜の露は若い海にも似て

若者は棲みにくいこの世を前に、
こころのなかで おののき、大きく苛立ち
永遠の深い傷にみちて、
看 護 婦みとりおんなを欲しはじめる。

しかし、おお、女よ、臓腑のかたまりよ、
 甘美な憐れみよ、
おまえは決して「看とり女」ではない、決して!
その黒い眼差しも、焦色の影の眠るその腹も、
その軽やかな手も、みごとに盛り上がった胸も、
大きな瞳をもちながら 開くことなき盲者めくらよ、
おれたちの抱擁はすべてひとつの疑問にすぎぬ、
乳房をもちながら、
 おれたちによりかかるのは おまえだ、
愛すべき重い情熱よ、
 おれたちがおまえを慰め、なだめるのだ、

おまえの憎悪、おまえの凝りかたまった茫然自失、
 おまえの悶絶、
そして、かつて、苦しみ悩んだ むごたらしさ
おまえはおれたちにすべてをかえす、
 おお、しかし、悪意なき「夜」よ、
毎月おまえが迸ばし流す、あふれる血のように
一瞬、みごもった女を恐怖せしめる時、
「美神」と燃える「正義」とが来て
かれらの厳かな妄念から「恋」を引き裂く、
   若者を苦しめる、

生の呼び声と行動の歌─「恋」が
ああ、絶えず、光彩と静寂
執念深い二人の『姉妹』から見捨てられ、
 やさしく泣きながら、
「恋」は その血のながれるその額を
 花咲く自然のなかえ運ぶ。

かれは、胸えぐるような孤独が
 自分のうえをよぎるのを感ずる
そのとき、いつも美しく、死をも恐れず、
真理の夜をとおして、はてしない さまよいと夢を、
茫漠たる果てに信じたいのだ
若者はそうして、その魂のなかで、その病める手足で
 おまえを呼ぶ、
おお、神秘な死者、おお、慈愛の姉妹よ!
             看とり女


      (ノート1948年)

裸婦像
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