死の灰
斎藤林太郎
来る船 来る船みな灰をかぶり
死の灰が吹き
死の灰が降る
農家の温床
街の台所にそいつは降る
悪魔どものビキニの死の灰。
八千万の人口密度
食糧の不足を海からあさる日本
太平洋のすみっこ列島日本は
一体これから何を食うのだ。
降らした灰の一粒も機密だと
放射能に射られたひん死の漁夫たちを
モルモットがわりに使おうとする
冷酷な彼らのやり口
世界の人民から陰口言われ
嫌悪とのろいの睡を吐かれ
真正面から戦争放火者と極印され
なお憶面もなく
自由と平和の舌看板
日毎変る世界地図を
キヨロキヨロ見まわし
革鞄を抱えて
こうもりのように夜の飛行場からも飛立つ奴。
キリストを言う舌先から
水爆のおどし文句をふりまく奴
マグロ肌の芥文化を地上にふりまき
民衆をめくらにしようとたくらむ奴
終末の政策を星条旗で包む奴
あせればあせる程しっぽが出
大きな矛盾のまえで首をかしげる奴
もはやその独裁の情性は許せない
高まる意識は批判をふかめてゆく
新聞写真のマグロの内臓から
検出される放射線の炎に
彼らの腹わたの正体が見える
ヒロシマ、ナガサキを原爆で焼き
いままた 死の灰を人間の頭上に降らせ
傲慢に武力を誇る奴
貪欲な商法で苛酷な戦争え
他民族をかりたてる奴
支配者と民衆の
これ程はっきり現われたときがあったろうか
もはや戦争は彼らの考えてるようなものではない
彼らが無謀な戦火を切るとき
目前にも背後にも
立ちふさがる民衆の防壁に
驚愕するだろう
首をちぢめておののくだろう
おお 五月の若葉
新緑の若葉の季節に
彼らの終幕を閉せ
悪魔どもの舞台を廻せ
腕まくりの手で
日灼けた肩で
筋ばった足で力を入れよ
葬れ 葬れ
彼らの死灰とともに葬れ
世界から
永遠に
そいつらを
氷と暗黒の裏側え裏側え──。
一九五四・五・二
(『角笛』11号 ─ビキニの灰特集 1954.8)
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