ビキニをめぐる島々に
北条さなえ
ビキニをめぐる島々に
怖ろしい灰がふっている
ビキニをめぐる海の上に
死の灰が音もなくふっている
だが船は波まをかけめぐり
甲板の上にはまぐろの山
エンヤエイ エイと漁夫たちはうたう
おお 海ととりくんだ日はすぎた
かがやく銅いろの皮ふをなで
心は はやも ふるさとへ
流れよ 潮よ 足ばやに
ふけよ 風よ ふるさとへ
その時いまわしい災いが
しのび足しておそいかかる
ふれたものをやきころす
悪まのまいた死の灰が
おお どうしてのがれることができただろう
ぶきみな灰の洗礼を
ビキニをめぐる海の上に
音もなくふる死の灰を
エンジンの音をふるわせて
不運な船は走りさる
不幸な漁夫たちと獲ものをのせて
呪われたビキニよ 不幸な島の人々よ
船は 息せき かえってきた
なつかしい町 ふるさとの波うつ岸に
だが 妻たちの花は真昼にしぼみ
漁夫たちはたおれ えものは土深く埋められた
それ以来 日本には
不幸が つゞいておそってくる
風が死の灰を運んでくると
放射能の雨がふりそそぐ
空気も 水も 魚や野菜も 花さえも
悪病と 時ならぬ死の匂いがする
おお ビキニ ビキニの空のきのこ雲を
まきおこした奴を私は憎む
おお ビキニ ビキニの空のきのこ雲を
まきおこした奴を私は憎む
そして私は なお憎む
悪魔への協力を誓うどこかの大臣を──
アジャには今も死の灰の灰がふっている
だが やがてもっと怖ろしい灰がふろう
悪魔と 黒犬とその手先きの上に
──神と民衆のさばきの灰が──
(『角笛』11号 ─ビキニの灰特集 1954.8)
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