『ランボオ』4.ランボオ家・「七歳の詩人たち」(下)

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 運命というよりはむしろ遺伝のほの暗い力に駆られて、彼女は成人してゆく子供たちと対立し衝突するようになる。とりわけアルチュールは激しく母親に反抗する。妹のイザベルもパテラルヌ・ペリションと結婚しょうとした時、娘と母のあいだにはしばしば険悪ないさかいの場面が見られたという。(ルイ・ピエルカンの証言) 
 ランボオ夫人は自分の信条を子供たちにきびしく守らせようとした。ランボオ一家が日曜日の十一時のミサに出かける時の、シャルルヴィルの街道りをゆく奇妙な列は、町の評判であった。前には手をつないだ二人の小娘。そのあとを、二人の男の子がめいめい青い木綿の雨傘を手にして、滑稽なほどきちんと服を着こんで進む。すべて流行おくれの大きな靴に丸い帽子、白いカラー、最後に、ランボオ夫人が顔つきもいかめしく、黒絹の胴着に身をつつんで、絹の手袋をはめて、しんがりをつとめる……。
 もっとひどいことには、ランボオ家にあっては子供たちがしばしば頬をひっぱたかれたことである。ドゥラエはランボオの告白した、このような家庭における母親のテロリスムについて書いている。さらに母親は子供たちにパンと水だけを与えるという罰を科したり、部屋に閉じこめたりした。ランボオ夫人は家のなかで暴君だったのである。母子家庭における後家のがんばりがそういう酷薄さを生んだのでもあろう。
 ランボオ夫人は少しも息子アルチュールを理解しなかった。母親のこの無理解は息子の反抗をかきたてると同時に、他方では従順をよそおった芝居を演じさせることにもなる。「七歳の詩人たち」のなかのつぎの詩章がそれを物語っている。

  さて おふくろは 宿題の本をさっと閉じると
  満足そうに勝ち誇ったように 出て行った
  息子の青い眼のなかに おでこの額のしたに
  嫌悪に燃えているその魂には 気がつかず

  一日じゅう子供は母の言いつけに従って汗をかいた
  とてもおりこうに だが暗く顔をひきつらせた
  そんな顔つきは 猫をかぶってることを示していた

 ランボオが六歳から七歳にいたる間、つまり一八六〇年から一八六一年にいたる間、かれの一家は庶民的な古いブルボン街に住んでいた。ペリションの語るところによれば、ランボオはそこで「労働者の社会との近所づきあいを知った。──その労働者街では、放ったらかしにされた子供たちが、階段で、中庭で、街なかで、思いのままに遊びまわっていた。」子供のランボオはその街が好きだった。そこから引越してからも、その労働者街を彼は愛していた。そこでいっしょに遊んだ遊び友だち、貧相で汚いその街の子供たちを、「七歳の詩人たち」のなかで彼は思い出している。彼がその子供たちと遊んでいるところを母親に見つかった時の、その母親の怒りようを彼は思い出している。また夕ぐれ、仕事着を着て帰ってくる、その街の労働者を彼は思い出している。

  かわいそうに! その子供たちだけが彼の友達だった
  みすぼらしく 額をむきだし 眼は頬の上に色褪せ
  下痢の臭いのする 古ぼけたその着物のしたに
  泥まみれの黒くて 黄いろい痩せた手を隠した
  その子供たちは 白痴のやさしさで話し合った
  ふとそんな汚ならしい哀れな彼を見つけると
  母親はぎょっとした そして子供の深いやさしさは
  そのびっくり仰天した母親に 身を投げかけた
  よかった 母親は青い眼をしていた──うそつきの!
  ……
  十二月のどんより曇った日曜日は 大嫌いだった
  髪にポマードをつけて マホガニイの円テーブルで
  彼は 緑のキャベツ色にふちどった聖書を読んだ
  毎晩 夢までが ベッドの中の彼をさいなんだ
  神は好きでなかったが 鹿子色の夕ぐれ 仕事着で
  真黒になって場末に帰ってくる人たちは好きだった……

 「下痢の臭いのする 古ぼけた着物……」というのは、子供たちがズボンの中に下痢をもらしていたのであって、まさに七歳の詩人しかとらえることのできないレアリスムがそこにある。この「七歳の詩人たち」は早熟な少年ランボオの内面をよく伝えている。母親の圧制にたいして反抗する前に、彼はまず想像の世界、夢の世界に逃避する。人間が自由である世界、ひろい沙漠の世界に、少年は夢を馳せる。

  七歳 彼はひろい沙漠の生活に思いを馳せて
  すばらしい「自由」の輝いている物語を描いた
  森よ 太陽よ 岸べよ 草原よ!
  種本にした絵入り新聞の中で笑っているスペイン女や
  イタリイ女に 彼は顔を赤らめて 見入った

 またここには、ランボオの早熟な性の眼覚め、ヴィタ・セクスアリスを描いた詩章もある。

  インド更紗の服を着て 栗色の眼をした 隣りの
  労働者の 八歳のおてんば娘がやってきたとき
  乱暴なこの小娘は長い編毛を振り立てながら
  とある隅で かれの背なかに 飛びかかった
  下敷になった彼は 彼女のお尻に噛みついた
  かの女は パンティなど はいていなかった
  そして彼女に拳や足蹴で 痛めつけられて
  彼は彼女の肌の味わいを 部屋へと持ち帰った

(この項おわり)

   (新日本新書『ランボオ』)

草原

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