硫黄

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  硫黄 
    ──蔵王鉱山閉山にあたって──
                   丹野茂

きみは いま どこにいる。
きみは いま どこにでてゆく。
きみたちは──そしておれもだ
ながい間 鉱石を掘り 硫黄をつくり
硫黄とともに生きてきた。
硫黄をつくる労働者として 誇りをもって生きぬいてきた。

きょう 鉱山(やま)は坑口を閉ざし
おれたちは 鉱塵とガスのしみこんだ作業着をぬぐ。
索道はとまり クラッシャーの音もなく
しのびよる春をよそに 鉱山(やま)は不気味に静かだ。
もうはいることができなくなった 坑道よ。 切羽よ。
窯(かま)の火が消えた製錬場よ。 投げだされたスクラップよ。
ひくい屋並よ。 ゆがんだ窓よ。 破れ障子よ。 古畳よ。
荒れはてた杉皮葺きの長屋のむれよ。
そして ともに働き ともに生きた多くの仲間よ。
台所のにおいのする主婦(かみ)さんよ。
昼なお暗い長屋のトンネルのなか 無邪気にはねまわる子どもらよ。
──きみたちともお別れだ。
だが しかし おれたちの
からだにしみこんだものはなんだろう。
おれたちには──硫黄のにおいがしみこんでいる。
吐く息さえ 言葉さえ 硫黄のにおいがしているのだ。

硫黄とともに生きたおれたち。
硫黄のために死んだ仲間。
おれはいま仲間に 悲痛をこめて さよならをいう。
──落盤し 下敷きになり 一瞬にして死んだ仲間。
「よろけ」で死んだ仲間。
くたびれて めまいがして 窯に落ち 焼け死んだ仲間。
傷つき たおれ 焼けだされ すくいをもとめ
死んでいった仲間を おもう。
とりのこされた遺族をおもう。
いくども鉱山(やま)をふりかえり 手をふり
おらが鉱山(やま)と おらが仲間の 記憶をたぐる。
いくばくかの金をふところに 多くの仲間も去ってゆく。
──ちりじりに。

硫黄
硫黄をつくらせ──利益だけをねらったもの。
あるいはそれにつながるもの。
貿易の「自由化」を きめ
自国の鉱山を 企業をつぶすもの。
かれらはどこにいるのだろう。
かれらは いま どこにどうしているのだろう。
かれらは おそらく でかい邸宅にいるだろう。
ニッポンという 混沌とした 手あかによごれた古地図のうえで
かれらは密議をこらすだろう。
かれらは おそらく あたらしいもうけ仕事をねらうだろう。
安くつかえる労働者をさがすだろう。
安くつかえる労働者に してしまおうともするだろう。
自分の国をも 国民をも
もうけるためには売るだろう。
──ドルをつぎこみ かれらに少く利益をあたえ
取引きを押しつけてくる 買いとる勢力があるだろう。
そしてかれらは つぶれゆく鉱山を 炭鉱を 中小企業を
おれたち仲間を
ふりむこうともしないのだ。

硫黄とともに生きたおれたち。
おれたちとともにたたかい 支援しあった多くの仲間。
石炭とともに生き ふきだす汗で 石炭のように黒びかりする仲間。
銅のにおいのする仲間。
鉄のにおいのする仲間。
労働をよろこびとして 生きがいとするおれたち仲間。
そして 利益だけをねらったかれら。
このような現実が
ニッポンのいたるところにあるだろう。
いたるところでおれたちを待ちぶせていよう。
だが しかし おれたちは生きねばならぬ。
働くものが幸せになる世の中をつくるため
生きて たたかってゆかねばならぬ。
そのような国のしくみが 国の政治が
海のむこうの対岸にまできているのだ。
いまここで おれたちはもう一度握手をしよう。 硫黄のにおう手をもって。
おれたちの骨太の手から手につたわる この血のぬくもりを大切に!
しっかりと握りかえすおれたちの手の この力のこもるゆすぶりをわすれずに!



   (丹野茂詩集『硫黄』)

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