丹野茂「蕎 麦」

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  蕎 麦 
                  丹野茂

けさもひどく冷えるじゃあないか。
鳥海山に初雪がおとづれて
まるでお山が頬かむりでもしたようじゃあないか。
この痩地からありったけの力をすって
おらたちはけさも素朴な顔で素朴にほほえもうとする。
──蝶も死んだ。
──蜂も死んだ。
──虻も死んだ。
みんな生活の花園をもとめ もとめあぐねて
かよわいはばたきをのこして
おらたちのまわりをとびくるい
とびくるいつきてこごえ死んでいったものたちだ。
おらたちの顔にもしわがよって
おらたちの顔は土いろだ。
土に芽生えたおらたちが 土に根をはって成長し
一粒一粒の実になって ぽろりぽろりと涙のように大地散ってゆく秋だ。
野山のいろも 血のように このひとときを真赤にもえる。
もうじき冬がくるのだ。
あの おらたちが寡黙になる 暗い冬が
あの暗い冬に埋もれたなかでの生活の予感がする。
この寒い 身ぶるいする予感のなかで
おらたちはけさも しょぼついた血族の眼とともに
つぶらな瞳をみはっている。


(丹野茂詩集『硫黄』)

雪原

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