斎藤林太郎「草の葉は歌う」

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草の葉は歌う


  (詩集『暗い田園』1956年)

タンポポ



 草の葉は歌う
     ──ハンガリー田園狂想曲を聴いて──
                         斎藤林太郎

赤く燃える空の彼方から
黄いろいほのおのように草の葉は合唱した
逞ましい樹木のかたわら
みどりの恋の花が咲く
蜜蜂は花粉をつけたまますんすん泳いで
重い屋根の村落が散っていた

陽はぎらぎら中天にかたむいて
点々と農用車の輪音が響いてきた
人びとは蝶々のように囁きながら働いた
そこは圧迫された小国のいじらしい世界だった
人びとの食物は缺乏していた
それでみんな簡素な生活をした
みんなは鍬をよせて歌い合った
静かな詩の調べ……

あゝハンガリーの農民よ
強国の淋しさは知るまい
鷲の悲しみは知るまい
合唱は流れのようにつゞいた
それは私の憧れの歌であつた
永遠なる未完成の途上に
人の平和こそハンガリーにある
そこに絵がある 詩がある 音楽がある

あゝ奏でる調べに私の悲しみは凝固して
悲しみは悲しみを招んだ
それは岩蔭の幾千の木の葉の重りだった
空には大きく星がふくらんだ
霧が星をかすめた
私の悲しみたちはかさこそと寄りそって
固い睡りにおちていった 
      (一九三六・一一・二〇)
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