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ネルーダ「逃亡者」Ⅲ

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   逃亡者 Ⅲ

  あるとき おれはやみ夜にまぎれて歩いていた
  アンデスの夜は 町をよぎってきて
  あたりにひろがり おれの服のうえに
  黒いばらを咲かせた
  「南部」は 冬のさなかだった
  雪がふかくつもり
  寒さは 凍った無数の針先ではだを刺した

  マポチョ川は 黒ぐろと雪の中を流れていた
  おれは 静まりかえった通りから通りへと
  圧制にいためつけられた町を歩いていった
  おれはまるで 沈黙そのもののようだったが
  愛情があとからあとから眼の前にあらわれ
  おれの眼をとおって 胸のなかにしたたり落ちた
  なぜなら この通りも あの通りも
  雪をかぶった夜の戸にも
  夜のなかの ひとびとの孤独な暮しも
  さびれはてた場末に追いこまれた
  みじめな人民も
  ほの暗いともしびをともした最後の窓も
  黒いさんご礁(しょう)のような家家も
  あたりを吹き荒れる風までも
  すべてがおれの味方だった
  すべてが 静けさのなかで おれの方に
  愛情にみちたくちびるを寄せてきたのだ

(『ネルーダ詩集』角川書店 S47)

雪
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