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竹内景助「秋風に憶う」

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秋風に憶う
               竹内景助

娘には歌を教えてやりたかったよ
せめて小中学生の頃いっぱいは。
俺の声はバリトンかバスか
はなはだ あいまいだが
ともかく男親のたくましい声で
空いっぱい、大地一杯響く思いで
明るく 楽しく
人生の自然の心を
歌いあげてやりたかったよ。
すがすがしく頼もしい合唱の中で
かしこく寛やかな心をつくってやりたかった。 
秋風に吹かれて
そんなことを憶う囚獄の心だ
息子たちには
キャッチボールの相手をしてやりたかったよ
せめて小中学生の頃いっぱいは。
はじめは布ボールを作って
軽く投げあっていても
やがてグローブとミットで
硬い球をびゅんびゅん投げて
おやじの たのもしさを
植え付けてやりたかった。
カーブ、ナックル、シュート、シンカー、スライダー、さまざま教えて
人の世の変化に応ずる勇気と
自信を植え付けてやりたかった。
秋の陽を浴びて
そんなことを憶う 親の心だ。

   一九六六・一〇・二八
     於・東京拘置所

竹内景助


(「三鷹事件の真相を究明し、語り継ぐ会ニュース 12号」2015年5月30日)

*獄中に18年間繋がれ、家族との生活を奪われたまま獄死した竹内景助。娘、息子への思いが痛切で心を打たれます。

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