トンの河口

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  トンの河口
                       ホアン・チュン・トン

  海の波は ごうごうと唸ることができるのに
  なぜ 話すことはできないのか
  風は飛べるが ひと吹きでは飛べない
  白い砂の浜べ 茂った木々が煙幕をつくり
  海の上 無数の舟の帆が果てしない空にひろがっている

  空はきょう 晴れと同時に雨ぐもり
  雲は 白くて 黒い
  水は 澄んでいて 濁っている
  海は 静かで 波立っている

  たくさんのジャンクの群れ……
  ジャンクの群れが 波をおしわけて
  縦横に行きかう
  「北」の舟と「南」の舟とを誰が見わけられよう?

  おお トンの河口よ
  朝は晴れで 夕ぐれは曇り
  海の波は うなりをあげる
  のどしめつけられる思いで
  海の波は 怒りほえる

  この二つの長い砂浜は いっしょになりたい二本の腕だ
  この二つの波止場は いっしょになるために渡船を待っている

  おれはじっと「南」を見つめる いつまでも見つめる
  そこは ビニットの河口だ
  しかし トオン・アンはどこにあるのか
  みどりの木々におおわれたグハンの山々は
  こがねの砂浜をもったエンの島は
  いったい どこにあるのか……

  おれはじっとそこにたたずむ
  風が肩の上を吹きぬける
  水が おれの足にとびはねる
  おれは何か歌いたくなるが 声は出ない
  おれは 岸べの岩のように じっとしている

  やあ カトソンの人たち 「南」の人たち
  八年というもの あなたたちはいつも祖国に忠実だった
  わき腹には鉄条網 のどもとには敵の手
  しかしあなたたちは 槍を研(と)ぎながら怒りを研(と)いでいるのだ

  帆にいっぱい風をはらんで 漁から帰ってくる
  向うのディ・ロアンとトン・ルオットの兄弟たち
  あなたたちは めしものどをとおらない
  復讐の思いが よるもひるも離れないからだ

  おお トンの河口 トンの河口よ
  おまえの名は 海のようにうつくしい
  おまえの怒りは 海のように深い
  生れ故郷の海の潮騒がおれの耳にきこえてくる
  海の波は おれのこころの上をうねり
  風は おれの頭のなかを吹きぬけるのだ

*ホアン・チュン・トン 一九二二年に生まれる。一九六五年ベトナム作家協会運営委員会委員員。作家協会機関誌『文芸』編集委員会書記。

(『ベトナム詩集』飯塚書店 1967年)

砂浜

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