村に帰える

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    村に帰える
              ノン・クオック・チャン

  おっ母さん
  カオ・ラン地区が解放されたよ
  敵はやっつけられて つかまったよ
  味方が 拠点をみんな占領している
  人間が 蟻のように うようよしている
  銃が 森の中に 枯木のように山と積まれている
  あす おれたちは村へ帰えるよ
  わらぶき家を修繕したり 草を苅るよ
  丘を開墾したり 田んぼをたがすよ
  庭の垣根をつくったりして 仕事を始めるよ

  去年は 正月のお祭りも 十五日のお祭りも
  七月のお祭りも 忘れていた
  山の中や 谷の奥に逃げかくれて
  おれたちはたいへんな苦労をなめたものだ
  おっ母さん あの日を忘れんでしょう
  どしゃ降りの雨が 滝のように降っていた
  風が吹き狂って
  森のなかの木木は折れんばかり
  稲妻がひらめいて雷が鳴った
  おれたちの小屋の屋根が吹っとんで
  破れた戸が 道に倒れた
  おれたちの足には 蛭(ひる)が吸いついて黒かった
  そこへ鉄砲で射ちこんできた
  また掃討がはじまったのだ
  敵は すべての隠れ場を焼きはらったのだ
  もう燃えがらの炭しか残っていなかった
  やつらはなんでもみんな──上着やズボンまでかき集めた
  おっ母さんは 弟をおぶって森の方へ駆け出した
  うまく逃げのびると おれを呼んだ
  おれは袋を肩にかついで おっ母さんのあとを追った
  おっ母さんは おばあちゃんの手をひいていた
  めくらのおばあちゃんはどこへ行くのかも分らなかった
  おっ母さんは おれに向って叫んだ
  「さあ どうしたものやら?
  わしらは 抵抗せにゃならん
  やつらは おっ父を引ったてて行って
  うち殺してしまうよ」
  おやじは 売国奴をののしって なぐりかえしたのだ
  まもなく一斉射撃が始まった
  おやじは倒れて 地べたに転(ころ)がった
  おっ父はもう声も出さなかった!
  おれたちはまだ小さい
  いったい だれが育ててくれるのだ?
  おばあちゃんが死んだら
  だれがおれたちをみてくれるのだ?
  おっ母さんは坐りこんで泣きくずれ
  おれも頭をうなだれて泣いた
  おっ母さんは おれをなぐさめて
  敵がききつけるから 泣きわめくのをやめろ
  と言った それでおれはだまったのだ

  小屋はどれもめちゃめちゃにこわされていた
  もうあたりには人影も 板っこも見えなかった
  おっ母さんは肩掛をとって おっ父の顔にかけた
  おれは上着をぬいで おっ父のからだにかけた
  おれたちは おっ父の屍体をはこんで
  森のふちに葬った
  おれたちの手は 血で赤く染まり
  顔じゅう 涙でぬれた……

  きょう カオ・バック・ラン地区には笑いがどよめく
  ひとびとは 森をはなれ
  家財道具をもって 村へ帰える
  久しぶりで野の草が 人間の声でふるえるのだ
  草やぶになってしまった田んぼで
  草を苅り 土を掘りおこしながら
  おっ母は 子どもに話しかける

  ひろい街道の上を 自動車がうなりをあげて突っ走る
  学校で 子供たちはにぎやかにおしゃべりをしている
  ふわふわした煙りがわら屋根の上にただよう
  もう道も 草でかくれることはない
  もう虎も バナナ畑にやっては来ない
  木にみのった木の実も熟(う)れないうちにとられてしまう
  もう田んぼのなかに 血だまりができることもなかろう

  だが侵略者どもはまだおれたちの国にいすわっている
  やつらをみんな追っぱらったら
  おれは おっ母さんのそばにもどってくるよ
  おっ母さん 日がのぼる もう夜明けだ
  おれはまた解放軍といっしょに出かけるよ
  さようなら

*ノン・クオック・チャン
 一九二三年生れ。少数民族タイイ族出身。若くして革命運動に参加、日本軍の占領中は、北ベトナム地方でゲリラ隊員として闘う。詩「村へ帰える」は一九五一年の世界青年友好祭で入賞した。詩集に『戦う北ベトナム』、『北ベトナムのひとびとの歌ごえ』、『花咲く山のひとびと』などがある。

(『ベトナム詩集』飯塚書店 1967年)

ベトナム
(Catalogue of "1954-1975・VIETNAM" Exhibision of Photographs)

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