アラゴン「むだな戦争 CHANT DES COMBATS INUTILES」

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むだな戦争 CHANT DES COMBATS INUTILES

わたしは見た 軍刀を振り回す手を
わたしは見た 馬が野を駈けまわり
鋭くいななくと 後脚で立ち上るのを
外套(マント)がひるがえり 拍車が当てられ
腹に血がにじんで 馬が跳びはねるのを 

わたしは見た 空にひるがえる軍旗に
怖れおののく 鷲や山鳩たちを
わたしは見た 遠く大地を吹きさる風を
戦場のチェス盤に燃えあがる火を
逃げさって 最初に倒れる犬どもを

切り落せ 手綱を振るキリスト者の拳を
削ぎ落せ その耳を 鼻を 頬を
わたしは見た かれらの泉から迸りでる血を
鍬の下の草のように 崩折れた人間を
わたしは見た 穴ごとに呻めくその肉体を

わたしは見た 棍棒と槍が支配するのを
わたしは見た くちづけを忘れた口を
わたしは見た 沈黙ののどをかっ切る刃(やいば)を
わたしは見た 踏みにじられた生を
わたしは見た 百回も拷問された死者たちを

わたしは見た 空しく向きあった敵同士が
つまらぬことで 二重の虐殺をかさね
ぶざまな臓腑をひきずって逃げてゆくのを
夜になっても 勝負はつかずに揺れて
両軍がくりひろげる おなじ残酷さを

わたしは見た あの野獣が まひる
食事を終えると 岡に逃げさるのを
そうして怪物の愛のベッドのうえに
月は 闇を布団のように押しのけて
その輝く腕のなかに肉体たちを捉えるのを

 この詩は、アラゴンの長詩『エルザの狂人』のなかの一篇である。
 『エルザの狂人』は、中世スペインにおけるイスラム最後の王国──グラナダ王国が、一四九二年、カトリック王軍によって陥落した悲劇を中心に、イスラム文化の理解と摂取、アラブの伝説的な詩人メジュヌーンなどの口をとおして、戦争、生、死、愛、とりわけ未来など、全般的な問題をうたった、もうひとつの大いなる歌といえよう。
 この詩は、一四四〇年のグラナダ郊外ベガで行われた戦いを歌ったもので、そのときスペイン側は、カトリック王フェルディナンの指揮のもとに、四万の歩兵と一万の騎兵が戦った。
 「切り落せ・・・・・・キリスト者の拳を」というのは、アラゴンがイスラムの側に立って、これを書いていることを示している。

(自筆原稿/1999)
江戸川
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