運命はわたしを 

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 運命はわたしを    
                大島博光

運命は年老いたわたしを いやでもおうでも
あのオルフェウスにしたてようというのか
あのギリシャの詩人のようにいつまでも
地獄におちた妻を嘆きうたえというのか

運命はながい難病や死によって幾度となく
わたしの腕の中から妻をもぎとり奪いさって
むごい孤独のなかにひとりわたしを置いて
破れたヴィオロンですすり泣けというのか

うしろを振り返ったばかりに妻を二度死なせて
地獄からオルフェウスはひとりもどってきた
しかし妻のエウリュディケが忘れられずに
竪琴を涙で濡らしながらその不幸を歌った

バッカス祭の酒に酔ったトラキアの女たちは
ほかの女たちに眼もくれなかった詩人を
嫉妬のあまりに八つ裂きにしてその首を
戸板に乗せてヘブロス川の流れに投げ込んだ

おお わたしもひとり泣いて呻めいているよりは
むしろ四つ裂きにされ八つ裂きにされた方がいい
そうしてこの戸板に首をのせられて
千曲川の川波にでも揺られている方がいい

いやいやわたしに生きてきみを歌わせるのは
運命ではないきみだ生ける日のきみの熱い愛だ
いまなおわたしの枯枝を揺すりふるわすのは
生ける日にきみがわたしにくれた春の風だ
            
生ける日にきみがくれためくるめきのゆえに
生ける日のきみの眼の輝きをきみの頬の色を
わたしは歌いつづける 
とり憑かれた男のように

       一九九三年二月十七日  

(『老いたるオルフェの歌』

静江ヤマ


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